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特集

ゴリラ殺害事件の真相

JULY 2008

文=マーク・ジェンキンス 写真=ブレント・スタートン

年、コンゴのビルンガ国立公園で7頭のマウンテンゴリラが殺害された。犯人の目的は何か? 戦禍の残る密林に潜入し、事件の真相を追った。

虐殺者たちはじっと日没を待った。

 2007年7月22日。コンゴ東部、ビルンガ山地のミケノ火山中腹の森に、自動小銃を手にした一味が身を潜めていた。彼らの標的は、12頭のマウンテンゴリラの群れ、ルゲンド・ファミリーだ。ビルンガ国立公園を訪れる観光客に親しまれ、公園を監視するレンジャーたちに愛されてきたゴリラたち。群れを率いるのは体重225キロのシルバーバック(成熟した雄)のセンクェクェだ。

 群れのあるじは人間の気配に気づいたはずだが、人間の姿は見慣れていたので、とくに警戒しなかったのかもしれない。近くにあるブキマ村の宿舎にいたレンジャーたちが銃声を聞いたのは、夜8時頃だった。翌朝、パトロールに出たレンジャーが、3頭の雌ゴリラの死体を発見した。1頭の子どもがおびえながら、死んだ母親のそばでうずくまっていた。翌日、センクェクェの死体も見つかった。3週間後、群れの雌がもう1頭殺されているのが発見され、その子どもも死んだとみられている。

 この事件の1カ月前には、別の群れの雌ゴリラ2頭と赤ん坊が襲撃されたばかりだった。レンジャーが発見した時、1頭は後頭部を撃たれて倒れていた。赤ん坊はまだ生きていて、死んだ母親の乳房にしがみついていたという。もう1頭の雌はいまだに見つかっていない。

 2カ月足らずのあいだに、ビルンガ国立公園のゴリラが7頭も殺されたことになる。村人たちが巨大な雄ゴリラの遺体を運んでいる報道写真は、世界のメディアに取り上げられ、人々に衝撃を与えた。この写真を撮影したブレント・スタートンが、今回の私の取材にも同行してくれた。

 ゴリラは賢くておとなしい動物だ。レンジャーたちが「われらが兄弟」と呼び、大切にしているゴリラを殺したのは誰か? さまざまな推測が飛び交った。ビルンガ地域では、敵対する二つの武装組織と政府軍が三つどもえの衝突を繰り返し、公園内には数千から数万もの重武装の兵士が潜む。それに加えて、密猟や違法な炭焼きに従事する者たちもいる。

 公園周辺には、自給自足の農業でかろうじて生き延びている人々が暮らしている。大規模な難民キャンプがいくつもあり、殺りくから逃れてきた人たちであふれかえっている。長引く紛争で混乱に陥ったこの地域で、それまでゴリラが無傷でいたこと自体が、奇跡に近い。

 それにしても、いったい誰が、何のために、ゴリラを殺したのか。

 ビルンガ国立公園は、1925年に創設されたアフリカ大陸最古の国立公園だ。約80万ヘクタールの敷地には豊かな自然が広がっている。

 アフリカ大陸の国立公園のなかで、ビルンガにはもっとも多様な哺乳類や鳥類、爬虫類が生息していて、原産種も一番多いという。環境保護団体「ワイルドライフ・ダイレクト」のエマヌエル・ド・メロド理事長はこう語る。「ビルンガには世界最大級の溶岩湖があります。標高は900~5000メートル、高山植物に覆われた山岳地帯から沼地、熱帯森林、サバンナなど、実に多彩な自然環境を擁しています。地球上でもっとも素晴らしい国立公園と言っても、決して大げさではありません」

 マウンテンゴリラは、世界におよそ720頭いるといわれている。その約半数がウガンダのブウィンディ原生国立公園に生息し、残りの半数はそこから24キロ南のビルンガ山地に生息している。火山が連なり、ルワンダ、ウガンダ、コンゴの3カ国の国境をまたいで横たわるビルンガ山地には、三つの国立公園がある。コンゴのビルンガ国立公園はその一つで、200頭ほどのゴリラがすんでいる。

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