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写本の修復と保存

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写本の鑑定方法の詳細

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「ユダの福音書」の発見と
鑑定・修復・翻訳の詳細


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ロドルフ・カッセル博士の
インタビュー


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写本が公開されるまでの
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「ユダの福音書」とは

解説:荒俣宏

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古代の文書『ユダの福音書』の鑑定と翻訳



米ナショナル ジオグラフィック協会発、2006年4月6日付プレスリリースの全訳です。

【米ワシントン発】初期キリスト教文書『ユダの福音書』の現存する唯一の写本を含むコプト語のパピルス文書が、専門家チームによる鑑定、修復、翻訳を経て、1700年近い眠りから覚めようとしています。3~4世紀に作られた冊子状の写本(コデックス)の一部は、米国ワシントンD.C.のナショナル ジオグラフィック協会本部で4月6日に初めて公開されます。
 『ユダの福音書』は、イエス・キリストを裏切ったユダの行動に対する「もう一つの見方」を示し、両者の関係に新たな光を当てています。新約聖書に収められたマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの正典福音書は、ユダを裏切り者として非難していますが、新たに発見されたこの福音書によれば、ユダがイエスをローマの官憲に引き渡したのは、イエス自身の言いつけに従ってしたことだというのです。
 ナショナル ジオグラフィック協会は、ウェイト歴史的発見研究所、マエケナス古美術財団とともに写本の鑑定と、全66ページの修復・翻訳プロジェクトを支援しました。写本の断片をつなぎ合わせ、コプト語を読み取って英語に翻訳する作業は、コプト語の世界的権威であるスイスのロドルフ・カッセル博士をリーダーとする専門家の国際チームが行いました。写本には『ユダの福音書』のほか、ヤコブの名を冠した文書(『ヤコブの第一黙示録』)、ペトロからフィリポへの手紙、研究者が仮に『アロゲネス(異邦人)の書』と名づけた第4の文書の断片が含まれています。
 当協会のテリー・ガルシア副理事長(支援プログラム担当)はこう語っています。「この写本は、放射性炭素年代測定法、インクの成分分析、マルチスペクトル画像の解析、文章構造の分析、古文書学的な検証という五つの異なる角度から、古代に記された本物の聖書外典であることが確認されました。過去60年間で最も重要な古代の聖書外典の発見とも言われるこの文書は、キリスト教黎明期の歴史と宗教思想を知る重要な手がかりであり、歴史家や神学者をはじめとする専門家が今後も引き続き研究していくべき第一級の史料です。この作業には、長い時間がかかるでしょう。専門家同士の対話は、まだ始まったばかりです」
 ウェイト歴史的発見研究所は、最新テクノロジーを駆使した歴史・科学研究を通じて人類の知識向上をめざす非営利団体です。その創設者テッド・ウェイトは、「この重要な発見と調査は、世界の文化と歴史に対する人類の理解を深めるものであり、それを支援することは当研究所にふさわしい使命です。この歴史的文書に光を当てるプロジェクトに貢献できたことを、たいへん誇りに思います」と語っています。
 このコプト語のパピルス写本は、紀元300年ごろに書かれたとみられます。この写本は1970年代にエジプトのミニヤー県付近の砂漠で発見され、エジプトからヨーロッパを経由して米国に持ち込まれました。その後、写本はニューヨーク州ロングアイランドにある銀行の貸金庫で16年間も眠り続けていましたが、2000年にスイス・チューリッヒの古美術商フリーダ・ヌスバーガー=チャコスがこれを買い取りました。
 有望な買い手候補への売り込みが失敗に終わった後、文書の劣化が進むのを案じたチャコスは、2001年2月に写本をスイス・バーゼルのマエケナス古美術財団に寄託しました。同財団では「チャコス写本」と名づけられたこの文書の修復と翻訳を行った後、写本そのものはエジプトに運ばれ、カイロのコプト博物館に収蔵される計画です。
 マエケナス財団のマリオ・ロバーティー理事長はこう言います。「専門家チームが素晴らしい献身と努力によって文書の復元をなしとげ、研究者や一般の人々が将来にわたり写本の研究を続けられるようになったことを嬉しく思います。文書が発見地のエジプトに返還されることになったのも喜ばしいことです。私たちはエジプト当局と緊密に連絡を取り合い、写本が『帰国』する日に備えています」

写本の鑑定
 2005年1月、パピルスから採取した微量の試料と革の綴じ具の小片を、放射性炭素年代測定で世界的に有名な、アリゾナ加速器質量分析研究所(米国アリゾナ州)で分析しました。その結果、この写本の推定年代は紀元220~340年と判明しました。
 また、マクローン・アソシエーツ社(米国イリノイ州)での分析によって、試料のインクに炭素の黒色顔料とゴムが含まれていたことが確認されました。どちらも3~4世紀のインクによく含まれている成分です。3世紀のエジプトで使われていた様々な金属性インクと同様に、鉄分を含んでいることもわかりました。
 写本のページの一部は、マルチスペクトル画像(MSI)解析にかけられました。これは古文書の状態、特に後世の修正が加えられているかどうかを調べるためによく使われる手法です。米国ブリガムヤング大学パピルス画像研究室のジーン・A・ウェアがスイスでこの解析を行った結果、写本のパピルスの反応パターンは過去に分析した古代の文書とよく似ていることが判明しました。さらにマクローン・アソシエーツ社の調査結果を補強する形で、インクの特徴が、少量の炭素成分を含む金属性・鉄性インクと一致することもこの方法で確認されました。この点も、写本の推定制作年代の正しさを裏付けています。複数回にわたり修正された形跡(インクを複数回にわたり重ねた痕跡)は認められませんでした。
 写本の文章は、古代エジプトの言語であるコプト語のサイード方言で書かれています。その記述内容と言語的な構造を調べた著名な研究者は、写本の宗教的概念と言語学的特徴はナグ・ハマディ文書にそっくりだと指摘しています。1945年にエジプトで発見されたナグ・ハマディ文書も、やはり初期キリスト教時代に作られたコプト語の古文書群です。チャップマン大学聖書・キリスト教研究所(カリフォルニア州オレンジ郡)のマービン・マイヤー教授とドイツ・ミュンスター大学のコプト語研究者スティーブン・エメル教授は、写本の文章には紀元2世紀に流行したグノーシス派特有の思想が色濃く反映されていると語ります。後にコプト語に翻訳された『ユダの福音書』のギリシャ語の原典が作られたのも、ちょうどそのころです。
 古文書学による筆跡の分析でも、この写本とナグ・ハマディ文書はきわめて近い関係にあることがわかったとエメルは言います。「研究者として何百ものパピルス写本を見てきましたが、これは間違いなく、典型的な古代コプト語の文書です。100パーセントの確信があります」
 専門家はこの5種類の鑑定結果から、問題の文書は紀元300年ごろに作られた写本であると結論づけました。

文書の修復と翻訳
 写本の翻訳プロジェクトリーダー役を務めたカッセル博士は、ここまでひどい状態の文書は見たことがなかったと言います。ページの欠落がいくつもあり、ページの順番は入れ換えられ、ページ番号が書かれていたパピルスの最初の部分はなくなっていました。そして最大の難関は、パピルスの断片が1000個近く、パンくずのように散乱していたことでした。「写本はひどくもろくなっていて、軽く触れただけでぼろぼろに崩れそうだった」と、カッセルは振り返ります。
 複雑この上ないパズルを解くため、カッセル博士はスイスのパピルス修復専門家フロランス・ダルブルと、ドイツ・アウグスブルク大学のコプト語研究者グレゴール・ウルストに協力を要請しました。『ユダの福音書』は26ページあり、13枚のパピルスの両面に文字が書かれています。したがって、つなぎ合わせた断片の片面の文字が一致しても、裏側の文字がつながらなければ「正解」の組み合わせにはなりません。「10ページほどの書類を細かくちぎり、そのうち半分を捨てて、残りの半分だけで文書を復元する作業を想像してみてください。この作業がどれほど困難だったか、少しはわかっていただけるでしょう」と、カッセル博士は言います。
 ダルブルはもろいパピルスの断片をガラス板の間にはさみ、写本のページと断片の写真を撮影しました。そしてダルブル、ウルスト、カッセルの3人は、コンピューターに写本の文字部分と欠落部分を記憶させ、パピルスの繊維のつながりを肉眼で慎重に確かめながら、断片を少しずつつなぎ合わせ、写本の欠落部分を埋めていきました。この骨の折れる作業によって、3人は5年がかりで文書の80パーセント以上を再構築することに成功しました。2006年2月には、行方不明になっていた『ユダの福音書』の半ページがニューヨークで見つかり、この部分についても写真の撮影と英語への翻訳が行われました。
 カッセルはウルストとマービン・マイヤーの協力を得て、米国シカゴ大学のエジプト学・コプト語研究者フランソワ・ゴダールとともに『ユダの福音書』を英語に翻訳しました。
 コプト語の写本の元になった『ユダの福音書』のギリシャ語の原典は、正典福音書の成立期から紀元180年までの間に、初期のグノーシス派に属する人々によって書かれたようです。グノーシス派は、真の救済はイエスが側近たちに伝えた秘密の知識を通じてもたらされると考え、この秘密の知識は魂を物質的な肉体から解放し、人間の内部にもともとあった神とのつながりを復活させるものだと主張しました。さらに彼らは、イエスの父である神は物質世界を創造した旧約聖書の嫉妬深い神より上位の存在だと信じていました。『ユダの福音書』の記述によれば、イスカリオテのユダはキリストの真の教えを正しく理解していた唯一の弟子であり、ユダがイエスをローマの官憲に引き渡したのは、イエス自身の言いつけに従ったものだったというのです。
 紀元180年頃、フランス・リヨン(当時のローマ領ガリア)の司教だったエイレナイオスが書いた大著『異端反駁』は、『ユダの福音書』に言及した最古の文献として知られています。この書物はイエスとその教えについて、正統派教会と異なる見解をもつ者すべてを激しく批判する内容で、その中でエイレナイオスは、「裏切り者」ユダを崇拝するグループを次のように攻撃しています。「[彼らは]裏切り者ユダを……誰も知らない真理を知る唯一の存在だと主張する。……彼らはこの種の偽りの歴史を創作し、それを『ユダの福音書』と呼んでいる」。当時はマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四福音書のほかにも様々な福音書が流布していましたが、エイレナイオスは信者に対し、キリスト教徒は正統派の四福音書だけを読むべきだと主張しました。後にそれ以外の福音書は「禁書」とされ、その写本は人目につかない場所に隠されたと、専門家は言いいます。

『ユダの福音書』の記述
 『ユダの福音書』の冒頭には、こう書かれています。「過越(すぎこし)の祭りが始まる3日前、イスカリオテのユダとの1週間の対話でイエスが語った秘密の啓示」。福音書の初めの部分で、イエスは「お前たちの神」に祈りを捧げる弟子たちを笑います。この神とは、世界を創造した旧約聖書の劣った神のことです。そしてイエスは、この私を直視し、真の姿を理解せよと迫りましたが、弟子たちは目を向けようとしません。
 最も重要なくだりは、イエスがユダにこう語る部分です。「お前は、真の私を包むこの肉体を犠牲とし、すべての弟子たちを超える存在になるだろう」。つまり、ユダはイエスから物質である肉体を取り除くことによって、内なる真の自己、つまり神の本質を解放するというのです。
 この福音書には、ユダが弟子たちの中で特別な地位を与えられていることを示す記述がいくつかあります。たとえば、イエスは次のように語っています。「他の者たちから離れなさい。そうすれば、お前に[神の]王国の神秘を語って聞かせよう。その王国に至ることは可能だが、お前は大いに悲しむことになるだろう」。イエスがユダにこう語りかける場面もあります。「聞きなさい、お前には[真理の]すべてを話し終えた。目を上げ、雲とその中の光、それを囲む星々を見なさい。皆を導くあの星が、お前の星だ」
 さらに福音書は、ユダは他の弟子から嫌悪されることになるが、彼らより高い地位に昇るだろうと予言します。「お前はこの世代の他の者たちの非難の的となるだろう――そして彼らの上に君臨するだろう」と、イエスは言います。ユダ自身も、他の弟子たちから猛反発を受ける幻視を見たと報告しています。「幻視の中で、私は12人の弟子から石を投げつけられ、[ひどい]迫害を受けていました」
 福音書には、ユダの覚醒と変容を示唆すると思われる一節もあります。「ユダは目を上げ、光輝く雲を見て、その中に入っていった」。地上の人間たちは雲から聞こえる声を耳にするが、この部分のパピルスが損傷しているため、その言葉が何だったのかはわかりません。
 福音書の記述は、次のような場面で唐突に終わっています。「彼ら[イエスを捕らえにきた人々]はユダに近づき、『ここで何をしているのだ。イエスの弟子よ』と声をかけた。ユダは彼らが望むとおりのことを答え、いくらかの金を受け取ると、イエスを引き渡した」。イエスが十字架にかけられることも、復活することも、この福音書には何も書かれていません。

専門家の見解
『ユダの福音書』に描かれたイエスとユダの関係に対する「もう一つの見方」について、著名な聖書研究者たちは当時の信仰のあり方を探る貴重な手がかりであり、初期のキリスト教の多様性を示す重要な新しい証拠だと考えています。
 「この見解に同意するかどうかはともかく、きわめて興味深い見方です」と、グノーシス福音書の世界的権威である米国プリンストン大学ハリントン・スペアー・ペイン研究所のエレーヌ・ペイゲルス教授(宗教学専攻)は指摘します。「『トマスの福音書』や『マグダラのマリアの福音書』など、2000 年近くほとんど知られていなかった他の古代の文書と同じように、『ユダの福音書』もなじみ深い福音書の物語に斬新な見方を与えてくれます。これらの発見は、キリスト教の始まりに対する私たちの理解を変えつつあります」
 米国チャップマン大学のマービン・マイヤーはこう語っています。「これまで未発見だった福音書の文書が世に出ることはめったにありません。特に初期キリスト教の文献で言及されている文書の発見は、きわめて珍しいことです。『ユダの福音書』は、キリスト教の発展の道筋を知る重要な史料であり、初期キリスト教の豊かな多様性に改めて光を当てるものです」
 カナダ・アカディア大学神学大学院のクレイグ・エバンズ教授(新約聖書研究者)も、『ユダの福音書』の修復と出版を高く評価しています。「『ユダの福音書』は、キリスト教徒の中にイエスと弟子たちに対する多様な見方があったことを示す、重要な2 世紀の証言です。この発見によって、新約聖書に収められた正典福音書の内容に対する理解がさらに進む可能性もあります」
 写本の修復と文書の復元・翻訳作業は現在も続いています。まだページのどの位置に置くべきか判明していない写本の断片についても、カッセルは写真撮影と保存処理が終わり次第、公開したいと考えています。これらの断片を多くの研究者がじっくり分析できるようになれば、パズルがさらに完成へと近づき、欠落したページの復元と解読が進むと期待しているのです。









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