昆虫写真の達人、海野和男さんに聞きました 昆虫撮影のとっておきテクニック

急な動きをしない

 実際の撮影で注意したいのは、昆虫の前で急な動きをしないということです。なにしろ、相手にとって人間というのは、自分の何百倍、何千倍という巨大な生き物です。そんなものが、すぐそばで動いたら、驚くのは当然といえるでしょう。
 とくに、昆虫の複眼というのは、ふだんはぼんやりしか見えていませんが、動きに対しては敏感なのです。

 とはいえ、どう注意しても昆虫が警戒して飛んで行ってしまうこともあるでしょう。そんなときでも、もしそこが水飲み場のような昆虫が集まる場所ならば、じっと待っていると、きっと戻ってきます。習性を知っていれば、このようにもしもの時も慌てなくてすむのです。
 おもしろいことに、チョウやトンボの1匹1匹にもそれぞれ個性があって、まず好奇心が強いものが戻ってきて、私の様子をうかがいながら水を飲んだり花粉を集めたりします。それで安全だとわかれば、ほかのものも戻ってくるのです。

長年の憧れだったアシブトウンカの一種にタイの林で出会った。触覚と眼のように見えるが擬態。実は手前がお尻。(写真クリックで拡大)

自分の体のテンションと合わせる

 昆虫や動物の写真を撮るには、朝の光がきれいでいいという人がいます。だから朝早く出かけようというわけです。確かに朝の光がきれいなのは間違いないのですが、誰もが同じことをすれば、みんな同じ定番写真になってしまいます。
 それよりも、昆虫の習性を知って、1日のうちのどの時間に活動するかをチェックするべきでしょう。なかには、朝早く30分しか動かない昆虫もいますし、夕方に活動する昆虫もいます。自分の体のテンションと合わせて、無理のない撮影スケジュールを立ててください。

昆虫こそ生物多様性そのもの

 昆虫の撮影のおもしろさは、相手が小さいこともあって、撮影する人の個性や感性を自由に生かせるという点にあります。その点が、大きな動物の撮影とは異なるところです。
 それと同時に、生物多様性の素晴らしさを実感できるのも昆虫撮影の楽しさです。
全世界の昆虫は、名前がつけられているものだけで100万種。全部で数千万種もいると言われています。
 さきほどの狩人バチのように餌と天敵という関係の昆虫もあれば、寄生する昆虫と、される昆虫という関係もあります。昆虫だけを見ても、複雑にからみあって生態系が成り立っているのです。
 昆虫撮影を楽しむと同時に、生物多様性についても思いをめぐらしていただけたらと思います。

プロフィール 海野和男さん

1947年、東京で生まれる。昆虫を中心とする自然写真家。もの心ついたころから昆虫の魅力にとりつかれ、少年時代は蝶の採集や観察に明け暮れる。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学ぶ。大学時代に撮影した「スジグロシロチョウの交尾拒否行動」の写真が雑誌に掲載され、それを契機に、フリーの写真家の道を歩む。
アジアやアメリカの熱帯雨林地域で昆虫の擬態を長年撮影。1990年から長野県小諸市にアトリエを構え身近な自然を記録する。1999年2月よりデジカメで撮影した写真にコメントを付けて毎日更新する小諸日記をはじめる。
著書「昆虫の擬態(平凡社)」は1994年日本写真協会年度賞受賞。主な著作に「蝶の飛ぷ風景」(平凡社)「大昆虫記」(データハウス)、「蛾蝶記」(福音館書店)、昆虫顔面図鑑(実業之日本社)などがある。
NHK教育「ようこそ先輩」「人間講座」「視点論点」などテレビでも活躍。
日本自然科学写真協会会長、日本昆虫協会理事、日本写真家協会などの会員。

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