/2005年3月号

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特集

侵略的外来種 日本編

MARCH 2005



すき間だらけの固有種の楽園

 「侵略的外来種の問題は、イス取りゲームのようなもの。島には面積や標高に応じて大体決まった数の“イス”が用意されている。そこに外から生物が入ってくれば、何かが弾き出されます」と、琉球大学熱帯生物圏研究センター教授の太田英利さんは話す。

 強力な外来種が登場すると、島のひ弱な在来種が押しのけられ、絶滅してしまう。イスをめぐる外来種と在来種のせめぎ合いが、常に繰り広げられているのだ。

 島の生態系の弱さを、最も顕著に示しているのが小笠原諸島である。東京から約1000キロ南、太平洋にぽつんと浮かぶ小さな島々だ。航空路線はなく、観光で訪れるにも、6日に一度出発する船で25時間半もかかる。しかし、それだけにこの諸島には亜熱帯気候の美しい自然が広がっている。

 世界自然遺産への登録を目指している小笠原の誇りは、豊富な固有種が生息する原生の自然だ。自生する植物種の22%が小笠原の固有種で、動物もオガサワラオオコウモリやアカガシラカラスバトなど国の天然記念物に指定される固有種がいる。

 ところが、この貴重な生態系が今、外来生物の猛攻撃にさらされている。

 「島の人々の実感としてあるのは、秋の風物詩だったオガサワラゼミの鳴き声が聞けなくなったこと」と、小笠原自然文化研究所の鈴木創さんは話す。小笠原諸島のうち、人が生活している父島や母島では1980年代以降、それまで普通に見られたシマアカネやオガサワラトンボ、オガサワラシジミなどもいっせいに姿を消してしまった。

 その主犯とされているのが、グリーンアノールという体長10センチほどのトカゲだ。小笠原が米軍統治下にあった60年代半ばに、物資に交じるか、ペットとして米国から持ち込まれた。このトカゲが、島にいる昆虫を食べてしまうのだ。島々で昆虫の調査をした神奈川県生命の星・地球博物館学芸員の苅部治紀さんはこう話す。「父島で今でも見られる昆虫は、グリーンアノールが好んで食べないものくらいです」

 外来樹も、小笠原の森林に大きなダメージを与えている。小笠原高校の元生物教諭の安井隆弥さんらが、父島で在来種のシマホルトノキを植えるというので同行させてもらった。

 安井さんらが向かったのは数カ月前に外来樹のアカギを伐採した地域で、あちこちに切り株があり、どの切り株からも1メートルほどの若木が伸びている。「成長力が旺盛で、伐採しても次々に萌芽するから厄介です」。そう言いながら、安井さんは若木を刈り取り、代わりにシマホルトノキを植えていく。

 東南アジア原産のアカギは1900年代初め、開拓によって荒廃した森林に、燃料となる木を増やすために導入された。ところが戦後、放置された木々が分布を広げ、特に母島では面積の14%にアカギが進出するほどになった。

 小笠原の外来生物による被害は深刻で、ノヤギが植物を食べて島の土地を裸にする、野生化したネコが天然記念物のアカガシラカラスバトなどを襲う、といった問題も生じている。

 「大陸の生物は百戦錬磨だから強い。ところが、島の生物はそれらに対する備えがないんです」と、安井さんは話す。小笠原諸島は、島が誕生してから一度も大陸とつながったことのない「海洋島」だ。だから生物が入ってくる機会はとても少なく、在来生物の種数も少ない。元々、哺乳類はオガサワラオオコウモリだけで、在来の両生類はおらず、爬虫類はオガサワラトカゲだけだった。地上で動物を襲うような哺乳類もいなければ、ヘビやカエルもいない。外来生物に弱いのは、島の生物がそうした敵の少ない環境で進化を遂げてきたからだ。

 島ゆえの問題は、琉球列島や日本列島そのものにも当てはまる。小笠原諸島が「海洋島」であるのに対し、琉球列島や日本列島は大陸と陸続きになったことのある「大陸島」と呼ばれる。海洋島に比べれば生物種は豊富で、アジア大陸とつながったり離れたりするうちに、これらの島は独特の生態系を築いてきた。

 「以前はこの辺りでも見られたんですが…」。20年以上、沖縄の生物や自然を撮り続けている写真家の湊和雄さんと一緒に、沖縄本島北部の「やんばるの森」を通った。彼は撮影でこの森へよく通っているが、ここにしかいない国の天然記念物ヤンバルクイナの見られる範囲が減ったと実感している。結局、この日見つかったのは、林道を随分進んでからだった。

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