/2004年9月号

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特集

温暖化3
未来を予測する

SEPTEMBER 2004


数十年周期の「細かい気候変動」

 1960年代に初めてグリーンランドの氷床コア試料が採取された段階で、研究者はそこから急激な気候変動が起きたことを示す手がかりをつかんだ。グリーンランドの氷は10万年以上も解けないでいたため、そこに過去の地球環境に関する記録が刻まれていたのだ。

 グリーンランドの氷と、南極のロシア・ボストーク基地で採取されたさらに古い氷の試料を調べてみると、予想どおり、次第に冷えていく長い寒冷期とそれに続く短い温暖期が繰り返し訪れていたことが分かった。だがグリーンランドの氷は、長い寒冷期の時代にも、短い周期で暖かくなったり寒くなったりする「細かい変動」があったことを示していた。地球の気候は時に数十年という短い周期で、温暖化と寒冷化が起きていたのだ。

 ここから新たな疑問が生じた。こうした細かい気候変動は何が引き起こすのか。

 約7万年前から約1万1500年前の最終氷期に、こうした急激な気候変動はたびたび起きていた。この氷期で最も寒冷だった約2万1000年前には、分厚い氷が北米の大部分と欧州、ロシアの一部、そして南極大陸をおおっていたが、周期的にこの氷は何度も解けたり広がったりしていた。

 そして最後に氷が解けた後、現在の間氷期が始まった。それ以前に比べて気候が安定したこの地質時代は、完新世と呼ばれている。

 だが完新世への移行は、一気に進んだわけではない。まず、突然の温暖化が起きた。おそらくホイットロックの言う森の樹種の突然の入れ代わりは、それが原因だったと思われる。次に寒冷化し、さらに約1万1500年前に再び温暖化した。この時、グリーンランドの表面の温度はわずか10年のうちに8℃も上昇した。

 この急激な温暖化で、北大西洋に接する北米と欧州の何千年という歴史を持つ氷河が、わずか数百年の間に消失した。

 「これらの出来事は、ほとんど一夜にして起きたようなものです」と、米国オレゴン州立大学のピーター・クラークは言う。彼はアイルランドの氷河を地質学的な面から研究し、過去の気候変動について読み取っている。

 「なぜ突然、氷河が解けるのか、何がその引き金となったのか、それと似たことが現在でも起こりうるのか、を解明したい」とクラークは言う。「それには、最終氷期の氷河が解けた時期をできるだけ正確に知ることが必要です」

 そのため、クラークはアイルランド・アルスター大学の地質学者マーシャル・マケイブとともに雨具を着て膝まであるゴム長靴をはき、シャベルとビニール袋を持ってアイルランドの大西洋岸を見下ろす牧草地を歩いていく。彼らが目指すのは土の崖だ。

 その途中、マケイブは農家のすぐ脇に植えてあるヤシの木をシャベルで指して言った。

 「ここの緯度はアラスカ南部と同じです。それなのにヤシの木が生えているのは、北大西洋海流の影響を受けているためです」。北大西洋海流が熱帯の暖かい海水を運んでくるおかげで、アイルランドの海岸地方の気温は温暖だというのだ。「この海流がなかったら、ヤシの木はとっくに枯れていますよ」

 古気候学者はサンゴ礁や海底の堆積物を調べて、この北大西洋海流が、地球全体の気候に極めて大きな影響を与えることを明らかにしてきた。

 最終氷期の間、北大西洋海流の流れはゆるやかになり、アイルランドはアラスカに近い状態まで冷えた。だが突然の気候変動で温暖化が進むたびに、アイルランドの氷河は急速に後退した。氷河が解けて大量の水が大地に流れ出し、川のような深い水路が刻まれ、泥を含んだ水が海に流れ込んだ。

 やがて土が海底に積もっていく時、その堆積物のなかには微小な動物性プランクトンも閉じ込められた。現在の海面は過去に比べてずっと低いため、こうした過去の堆積物の地層は海抜80メートルの高さのところにもある。その層に含まれている「有孔虫」という動物性プランクトンの化石を地質学者は探すのだ。

 有孔虫の石灰質の殻は年代測定が可能なため、古気候学研究には欠かせない。マケイブとクラークがこの牧草地にやって来たのも、有孔虫の化石をたっぷり含んだ泥土を20キロほど掘り出し、年代測定を行うためだ。

 氷が急速に解け始めた正確な時期を知ることができれば、アイルランドの氷河の歴史と北米や北欧の氷河の歴史とを関連づけることができる。アイルランド海沿岸の泥土から採取した有孔虫を使った年代測定によって、マケイブとクラークは約1万9000年前に世界の海面が約10メートルも急激に上昇したことを示す証拠を見つけた。「その時期、北半球全体で氷河が解け、後退した」とクラークは言う。

 いったい何が原因で起きたのだろうか。マケイブとクラークは、原因は氷そのものの重さにあったかもしれないと言う。氷床が大きくなるにつれ、その重みで地面は下に押される。氷河が海面と同じレベルまで沈み込んだ時、氷は海に流れ出し、細かく割れて氷山となった。「その結果、海に真水が解け出して塩分濃度が変化し、深層の海流も変化したと考えられる」とクラークは説明する。

 北大西洋に真水が大量に流入すると、北大西洋海流の流れはゆるやかになり、熱帯地方から運ばれてくる暖かい海水の量が減少する。これによって海洋の大循環や気温が変化し、その影響は遠く南極にまで及んだ。地球の気候をシミュレーションするコンピューターモデルによると、北大西洋で起きたことは急速に地球全体に影響することが分かっている。

 「北大西洋の海水温が下がると、南半球の海水温が上がる。言わばシーソーのような現象が起きるのです。この海水温の上昇が結局、南極の氷を解かす原因になったと考えられる」とクラークは言う。

 南極の氷が解けて冷たい真水が海に流れ込むと、今度は熱帯の暖かい海流が北に向かって流れ、北大西洋海流の動きが再び活発化する。すると、再び北半球の氷が解ける。

 「結局、地球の北と南の氷が、時期を少しずらして解けることになったようです」とクラークは話す。「現在の地球には、グリーンランドと南極という二つの大きな氷床がある。そして二酸化炭素の排出量が増加したことで、気候の変動が起きている。これは二つの氷床にどんな影響を与えるのか。もし氷が解ければ、人間の生活にどう影響するのかを解き明かしたい」

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