/2004年9月号

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特集

温暖化2
生き物たちのシグナル

SEPTEMBER 2004


 パーメザンが行った研究は、地球温暖化と環境破壊の二重苦にあえぐ生き物たちの苦境を浮き彫りにした。それによると、メキシコ北部のバハ・カリフォルニア半島から米国カリフォルニア州南部のサンバーナーディノ山脈に至る長さ500キロの帯状の地域で、エディタヒョウモンモドキというチョウがこれまであった生息地のうちの80%で絶滅した。気温の上昇でエディタヒョウモンモドキが卵を産みつけるキンギョソウの枯れる時期が早まり、幼虫が成長に必要不可欠な栄養を取れなくなったという。この地域の北のほうには、エディタヒョウモンモドキの群れが十分に暮らしていける涼しい場所があるが、そこもサンディエゴ周辺の都市開発によって次第に姿を消しつつある。

 気温の上昇がこのまま続けば、いずれ生き物たちの逃げ場がなくなる。フレーザーはハンブル島のアデリーペンギンのコロニーのはずれで、発信器をつける個体を探した。この人工衛星用の発信器を取り付けた追跡調査のおかげで、後にフレーザーはアデリーペンギンがコロニーから15キロ以内の地域で食べ物を取っていることを突き止めた。今年は島の付近にオキアミがたくさんいるようだ。

 このような情報は、フレーザーと同僚の研究者が解明に取り組んでいる南極半島の生態系を知るための重要な手がかりになる。オキアミはペンギンやクジラなど多くの動物の生活を支える食物連鎖のカギとなる生物であり、海氷はオキアミの繁殖に適した場所だ。したがって、もし海氷が後退すれば、オキアミもそれを食べる動物たちも大打撃を受けかねない。

 フレーザーは1974年の大学院生の時に初めて南極を訪れ、南極半島西部のパーマー基地に研究拠点を構えた。パーマー基地と外界を結ぶ交通手段は船だけで、当時は周辺にすむ野生生物の実態はほとんど知られていなかった。そこでフレーザーはアザラシと海鳥の個体数調査に乗り出し、生き物たちが基地の近くにやって来る時期や子供が生まれる時期、巣立ちの時期を記録した。地球温暖化の問題はほとんど意識していなかったが、着実に積み上げた調査データは、後にフレーザーが取り組むことになる気候変化の研究に欠かせない資料となった。

 「ここにある手つかずの大自然に魅せられたのです。当時はまだ、ここは自分がちっぽけなものに感じられる場所だった。ここでは、人間も健全な生態系の一部でいられたのです」と、フレーザーは振り返る。

 フレーザーはアデリーペンギンと最初に出会ったころのエピソードを聞かせてくれた。あるとき彼は、ヒョウアザラシに襲われて首の根元から胸までえぐられた1羽の雌のアデリーペンギンを見つけた。胸骨もなく傷口の内部をのぞき込むと、肺が見えたという。この雌はヒナたちのそばから離れず、パートナーの雄が食べ物を取りに行っている1週間、ほとんど動かなかった。そして傷が少し癒えると、海に向かって歩き出し、わが子のために漁を再開した。 

 「アデリーペンギンは、私がこれまで出合ったなかで最もタフな動物です。体長わずか45センチで、飛ぶこともできないが、冬の移動時期には5600キロも泳げる。彼らは地球上で最も過酷と思われる環境で繁栄してきたのです」とフレーザーは言う。

 1983年から春と夏をパーマー基地で過ごすようになったフレーザーは、7年経ってから、基地周辺でアデリーペンギンの数が減少している原因をつかみ始めていた。1990年12月のことだ。フレーザーはトージェセン島を二つに分ける岩だらけの尾根に立ち、島の北半分に目をやった。島の北側は雪がほとんどなく、無数のアデリーペンギンが巣を作っていた。次に島の南側に目を向けると、ペンギンたちは深い雪の中で必死に巣作りをしていた。

コロニーに壊滅的な打撃

 南極半島西部ではここ数十年、降雪量が増えている。この現象は気温の上昇と関係がある。海面をおおう氷が減少すると、蒸発する海水の量が増え、パーマー基地の周辺では降雪量が増えるのだ。基地周辺の吹雪は普通、北東から吹く。そのため、雪は尾根の風下、つまり南側に積もる。そして、アデリーペンギンの個体数が急激に減っているのも、高台の南側にあるコロニーだった。

 「そこで突然、パッとひらめいた」と、フレーザーは振り返る。アデリーペンギンは毎年同じ時期に同じ場所で巣を作る習性があるため、雪や雪解け水の中で卵を温めようとして、孵化に失敗していたのだ。その結果、コロニーは壊滅的な打撃を受けた。すべてのコロニーが尾根の風下にあるリッチフィールド島では、1974年に子育て中のつがいが884組いたが、現在では47組に激減した。フレーザーによれば、ペンギンたちがよそへ移動したわけではない。研究チームは2万羽のペンギンに識別用の輪を付けているが、別の場所で見つかったペンギンはごくわずかだった。

 さらに、フレーザーは比較的雪の少ない場所のコロニーでも生息数が減っていることを知った。この問題の背後には、南極の生態系にとってきわめて大きな影響を与える海氷の動きにあった。アデリーペンギンにとって、海氷はかけがえのない漁場に続く足場であり、休息場所でもある。一方、アデリーペンギンに代わって数が増えているジェンツーペンギンは、氷の張っていない海を生活の場にしている。南極半島西部の海氷が20%ほど後退したため、アデリーペンギンは豊かな冬の漁場に潜るための足場を失ったのだ。 

 フレーザーは今も現地調査を続けている。先日も、かつてアデリーペンギンの重要な食べ物だったコオリイワシがパーマー基地の周辺から姿を消し、もっと海水温の低い海でしか見られなくなったことを突き止めた。また、亜南極地方にすむアナンキョクオットセイが、2200キロ北東のサウス・ジョージア島などから入り込んでいる事実もつかんだ。1974年、フレーザーがパーマー基地周辺の島々で見つけたオットセイは6頭にすぎなかったが、昨年夏には、3000頭のオットセイが確認された。

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