/2004年9月号

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特集

温暖化1
大地と海のシグナル

SEPTEMBER 2004


 メキシコ湾に面した米国ルイジアナ州の海岸をいつも車で走っているウィンデル・カロールは、将来この地域が水没しそうだと身をもって感じている。ルイジアナ州南部の沿岸は、100年間に約1メートルの割合で地盤沈下が進んでいる。これに海面の上昇が加わり、大きな影響を及ぼそうとしているのだ。

 カロールはケイジャン(フランス系移民)の7代目で、南ラフルシュ地区の堤防を管理している。陸地と沼沢地を隔てる未舗装の土手道をトラックで走りながら、彼は入り江や沼沢地、漁村に表れた温暖化の兆候を教えてくれた。

 高校時代のガールフレンドの家は一部が浸水したし、墓地にもひたひたと水が押し寄せている。カロールの祖父が狩猟のキャンプ地にしていた場所も今は冠水し、周囲には朽ちたオークの木が水に浸かって立っている。「私たちは陸地とも、沼ともつかぬような所で暮らしているんです」と、52歳のカロールは話す。

 海面の上昇、地盤沈下、海岸線の浸食、気まぐれな嵐。カロールは日々そんな現実に直面している。この20年間に起きた比較的小規模な高潮でも、カロールが管理する防潮堤や堤防、導水施設では被害を防ぎきれなかった。これらの施設は90年代に海面の上昇に備えて補強されたにもかかわらず、である。

 こうした変化はルイジアナ沿岸部だけでなく、世界中で起こっている。歴史的に見て、今ほど多くの人が海岸近くに住んでいたことはない。世界中で1億人余りが海抜1メートル以下の低地に暮らす。海面が上昇すれば、水没する恐れがある南太平洋の小国ツバルでは、すでに住民の移住が計画されている。

 上海やバンコク、ジャカルタ、東京、ニューヨークなど、海岸の平野や河口のデルタ近くに人口が集中する巨大都市も危険だ。バングラデシュなど低地にあって人口密度が高く貧しい国々では、経済やそこに暮らす人々への被害は非常に大きなものになるだろう。

たった1センチの海面上昇で…

 海面上昇は、様々な問題を引き起こす。この分野の専門家ブルース・ダグラスの計算によると、海面が1センチ上昇するごとに、砂浜の海岸線は浸食されて1メートル後退する。さらに地下の淡水層に海水が染み込めば、飲料水や農業用水として使えなくなる。

 エジプトの穀倉地帯であるナイル川デルタで広く海岸線が削られ、海水が地下水に入り込んだりしたら悲惨だ。エジプトにはほかに耕作できる土地がほとんどないのだ。

 人間の優れた土木技術が、海面上昇の被害を増大させている地域もある。米国のミシシッピ川では、はるか昔から絶えず河口に運ばれる豊富な堆積物によって、デルタが維持されてきた。ところが、人工水路や堤防の建設でこの自然のプロセスが断たれてしまったのだ。

 1930年代、石油・天然ガス会社が輸送や探査の目的で上流域に人工水路を築くと、高潮時に洪水を防ぐ緩衝地帯となっていた河口の沼沢地がなくなってしまった。さらに石油や天然ガスの掘削で地下水が大量に失われ、それが原因で地盤沈下が急速に進んだ。

 現在ルイジアナ州では、毎年およそ65平方キロの湿地が水没している。州当局は、デルタを維持する上流からの堆積物の代わりに、土砂を運ぶなどの対策を講じようと、政府に補助金を求めている。

 しかし、こうした地域単位の対策は、地球のほかの地域で起こる変化次第では、あまり効果のないものになるかもしれない。

 南極のラルセン棚氷は、2002年初めにその一部が崩壊した。グラスの中の氷が解けても水があふれないように、海に浮かぶ氷が解けても海面は上昇しない。だが、科学者たちが案じるのは、ラルセン棚氷以外の棚氷も次々に崩れると、南極大陸をおおう氷床がどんどん海に流れ込むようになるということだ。

 今世紀中にはまずそういう事態にはならないと見られている。だが万が一、南極大陸西部の「西南極氷床」が崩壊して海に流れ込めば、それだけで海面は6メートル近く上昇する。

 これほど大きな出来事はなくても、今世紀末までに海面は9~88センチ上昇すると、IPCCは2001年の報告書で予測している。最悪の予測が当たって90センチ近く上昇すれば、大災害は避けられないとダグラスは警告する。

 ルイジアナ州沿岸に暮らす人々にとって、こうした予測はすべて切実な問題だ。高さ3.5メートルの土手道から水没しかけた土地を見下ろして、カロールはつぶやいた。「私たちはモルモットのようなものです」

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