/2004年6月号

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特集

枯渇が迫る石油

JUNE 2004

限られた
地球資源の行方



 その様子を垣間見られる場所が、カナダのアルバータ州にある。かつて毛皮の交易所だったフォート・マクマレーのすぐ北、ちょうど幹線道路がアサバスカ川と交差している地点の川岸に、黒いタールを含んだ砂の層が伸びている。タールサンドの鉱床だ。暑い日には、舗装したてのアスファルトと同じ臭いがする。「現金の臭いだ」と地元の人々は言う。彼らが自慢するのも無理はない。アルバータ州のタールサンド鉱床に含まれる原油分は、埋蔵量1兆6000億バレル以上の油田に匹敵する。ことによると、世界中に残る通常の原油の合計より多いかもしれない。ただし、ここにあるのは通常の原油ではない。地中深くの岩石中で誕生した通常の原油が別の場所に移動した際の“残留物”が、地下水とバクテリアの作用でタールに変質したものだ。

 ほとんどのタールサンドは地中の深い場所にあるか、少量ずつ分散しているため、商業生産には適さない。だが1990年代、抽出の技術が進歩し、石油業者が支払うロイヤリティー(使用料)を、カナダ政府が事業開始直後の数年間にかぎって大幅に値引きした。今では1740億バレルの原油が経済的に見合う形で採取可能だという。

 それでもシェル・カナダの上級副社長ニール・カマータは、タールサンドと液体の原油とでは大きな違いがあると語る。「サウジアラビアの自噴する原油とは違う。我々がやらなければならない作業をすべて見てもらえばわかる」

 シェルを含む大手3社はアサバスカの砂から日産60万バレルの原油を採取しているが、タールサンドから原油を抽出する全工程で大変な手間がかかる。砂の採掘方法は露天掘りに限られ、2トンの砂を集めても採取できる原油分は1バレルにすぎない。採掘した砂は積載量360トンの超大型ダンプカーで運搬するが、鉱床が極地に近い場所にあるため、寒さが厳しい冬は荷台を温めなければならない。砂が凍結して大きな塊に変わってしまうからだ。次に砂を大きな洗濯機に似た機械に送り、温湯の水流と溶剤を使ってビチュメンと呼ばれるタールの一種を抽出する。ビチュメン抽出後に残った濡れた砂は、廃棄物の穴に捨てる。

 ここまで来ても、ビチュメンはまだ通常の原油のようにパイプラインで製油所へ送ることはできない。ビチュメンを原油の形にするには、500℃の熱でビチュメンの高分子を分解するか、もっと低い温度で熱しながら、水素ガスと触媒とともにかくはんしなければならない。これでようやく、きれいな低硫黄の原油が手に入る。ただし、この工程も簡単にはいかない。「これはきわめて大きなプロジェクトだ」と、カマータは言った。シェルはタールサンド採掘施設と昨年操業を開始した関連プラントに40億ドルを注ぎ込んでいる。だが一方で、カマータはこうも話した。「この事業が大きな影響を与えるのも事実だ。それを隠すつもりはない。環境面でも社会的にも大きな影響がある」

 すでにフォート・マクマレーの北の地域では、別のタールサンド採掘事業のせいで地面が穴だらけになり、灰色のねばついた廃棄物の池がいくつもできている。今のところ、傷ついた自然が元の草原と森に戻った例は全体の20%に満たない。土ぼこりとディーゼルエンジンの排ガス、硫黄ガスによる大気汚染の問題も生じている。

 それに、タールサンドから1バレルのビチュメンを抽出するには、3バレルの水が必要になる。採掘会社のプラントでは水の再利用に力を入れているが、それでもアサバスカ川から多くの水を引いている。集めた水を熱するために、大量の天然ガスも必要だ。カナダの天然ガス供給量が減っていることを心配したアルバータ州政府は、タールサンドの埋蔵地域に電力を供給するため、将来の原子力発電所建設まで検討している。

 地元の先住民は手つかずの自然が失われたことを嘆いている。原油価格が急落しないかぎり、破壊はこれからも続きそうだ。タールサンドを使った原油抽出のコストは1バレル当たり10ドル前後まで下がったことで、既存の採掘場は拡張が進み、新規参入の動きもある。一部の企業は、採掘が不可能な深い地下にあるタールサンドの鉱床に高圧の水蒸気を注入し、ビチュメンを融解させて採取する方法に取り組み始めた。アルバータ州政府によれば、今後10年以内に生産量は日産200万バレルに達する可能性があるという。

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