/2004年6月号

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特集

枯渇が迫る石油

JUNE 2004

限られた
地球資源の行方



石油がもたらす国の荒廃

 一方、大西洋の反対側に位置するカメルーンの沖合では、パイプラインの末端部にある巨大な原油積み出しターミナルが、米国の石油需要に応えるべく操業を続けている。このターミナルから数日おきに出航していくタンカーに満載された原油は、約10億バレルの埋蔵量をもつチャドのドバ油田からサバンナや熱帯雨林を経由してパイプラインで運ばれてきたものだ。

 パイプラインによる原油の輸送が始まったのが、2003年7月、その多くが米国向けの原油だ。このプロジェクトには、民間資本の投資額としてはサハラ以南のアフリカで最大の37億ドルが投入された。ギニア湾とその周辺に眠る300億潤E500億バレルの原油が、いかに米国にとって重要かを物語る数字だ。米国がチャド、ナイジェリア、アンゴラなどのアフリカ諸国から輸入する原油は今や全体の15%に達し、今後さらに増えると予測されている。

 このチャド-カメルーン・パイプラインには、米国のスタンドがガソリン不足に陥らないための安全弁という以上の意味がある。世界銀行とエクソンモービルを主力とする石油業界の企業連合が手がけたこのプロジェクトは、石油開発がアフリカの人々にもたらしてきた多くの問題をプラスに変えるための試みでもある。

 原油による収入はインフレを加速させ、たやすく金持ちになれるという人々の夢をあおり、アフリカ諸国の経済を荒廃させる結果を招いた。ナイジェリアでは原油生産の開始から30年ほどで、絶望的な貧困にあえぐ人々が2倍以上も増え、全人口の66%に達した。一方で腐敗した政治家や役人は、国庫に納められるはずの原油収入を自分の懐に入れた。こうした公金の横領は莫大な額に上り、たとえばアンゴラでは97年以降、40億ドル以上が国庫から消えた。

 こうした問題を防ぐため、エクソンモービルは世界銀行に対して協力を要請し、世界銀行はチャドに対して、新たな原油収入(2004年は1億90万ドル以上)の大半を社会基盤整備や教育、保健分野に振り向けるため、この資金を管理する独立機関を設置すべきだと主張した。同時にパイプラインの建設作業を監視し、建設ルート沿いに住む農民への補償措置を取りまとめた。

 だが、この取り決めには「スーパータンカーが通れるほどの大きな抜け穴」があり、チャド政府はスタート早々、事業開始時の一時金として石油会社から受け取った2500万ドルのうち450万ドルを武器購入に使ってしまった。それでも、この取り決めは重要なステップだと、米コロンビア大学のピーター・ローゼンブラム教授(法学)は指摘する。

 「原油収入の使い道について、専門家の間に悲観的な予想と不安があるのは確かだが、これで有意義な基本原則が確立されたという認識も広がっている」

 1990年代、カザフスタン共和国・カシャガンなどで原油が最初に見つかった時には、カスピ海は新しい中東になるという期待論が飛び交った。だが現在では、カスピ海の原油の推定埋蔵量は170億潤E330億バレルと、もっと控えめな数字に落ち着いている。中東原油の支配を突き崩す可能性がある地域は別にある。ロシアの西シベリアだ。

 シベリアはかつてソ連の石油産業の拠点だったが、90年代初めには油井や社会基盤の老朽化によって衰退してしまった。それが、ここへきて復活を遂げようとしている。ロシアは2003年、サウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になった。90年代初め、ソ連の崩壊に乗じて多くの油田を安値で買いあさった民間企業は、その後、油田の近代化に力を入れるようになった。

 最新の地震波測定装置を駆使して油田の再調査を行い、原油が眠っている場所や最善の採取方法を判断しているのだ。その結果、見込みのない油井を閉鎖して一方、有望な油井からは水圧破砕法と呼ばれる技術でより多くの原油を採取している。高圧力の液体を油井に噴射して岩盤を破壊し、新しい原油の噴出ルートを作るというものだ。

 「エクソンモービルやシェブロンテキサコと同じやり方で油田の開発を行い、年20%の増産を実現している」と、ロシアの2大石油会社の一つユコスの副社長を務める米国人ビジネスマンのレイ・レナードは言う。

 ロシアは日産900万バレル近い原油を産出し、その3分の2を輸出している。原油を国境まで運ぶパイプラインの整備が進めば、産出量はさらに伸びるはずだ。モスクワにある石油ビジネス研究センターのユージン・ハルトゥコフは言う。「輸出ルートが開ければ、原油はシャンパンのボトルから飛ぶコルクのように、国外市場に勢いよく飛び出すだろう」。だが西側諸国や、中国、日本に原油を送るための新パイプラインの建設は遅れている。

 原因は石油会社とパイプラインを所有するロシア政府の争いだ。さらにユコスの経営者だったミハイル・ホドルコフスキーが詐欺と脱税の容疑で逮捕されたことで、外国の投資家はさらなる油田の設備改善を目的とする出資に二の足を踏むようになった。それでも、OPECはロシアの石油に神経をとがらせている。ロシアが増産に踏み切れば、世界の原油価格を1バレル=22潤E28ドルで安定させようとするOPECの努力が台なしになりかねないからだ。

 レナードは、ロシアの原油埋蔵量を1000億バレル前後と見込んでいる。別の複数の専門家は、採掘された油田の数がまだ十分ではないため、具体的な数字を口にするのは時期尚早だと語る。いずれにせよ、ロシアの原油産出量は10潤E15年でピークに達し、その後はOPECの強力な価格支配力が復活すると、彼は言う。「2010年代の半ばごろ、原油価格は上昇に転じ、その後も上がり続けるだろう」

 この予測が正しければ、中東から遠く離れた場所にある特殊なタイプの原油が、ますます注目を浴びることになりそうだ。

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