/2004年2月号

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特集

炭素の行方

FEBRUARY 2004


北半球の巨大な貯蔵庫

 その貯蔵庫の正体も、大気サンプルから推測できる。海も陸上の植物も、大気から二酸化炭素を取り込む点は同じだが、あとに残る痕跡は違う。植物は二酸化炭素を取り込む時に酸素を出すので、吸収量に応じて酸素の量が増える。だが、二酸化炭素が海に溶ける時は、大気中の酸素が増えることはない。

 また、植物が二酸化炭素を取り込むと、残った大気の組成が変わる。植物がよく吸収するのは、炭素の同位体の中でも比較的軽い炭素12だ。そのため炭素13を含んだ二酸化炭素が大気中に多く残る。海はこうしたふるい分けをしないので、炭素12と炭素13の比率は変わらない。こうした手がかりからタンズらは、“消えた炭素”のほぼ半分に当たる20億トンは海に溶けていると推測した。北半球で貯蔵庫の役目をしているのは陸上の植物で、1年に平均20億トン余りの炭素を取り込んでいる。

 ウーフシーが観測している森林などが、陸上の炭素吸収の役割の一部を担う。ウーフシーは鉄塔に設置した装置で、風や太陽熱によって動く空気を、木々の上で観測している。鉄塔を風が過ぎていくたびに、センサーが二酸化炭素濃度を検出する。理屈は単純だと、彼は説明する。「上昇する空気の二酸化炭素濃度が、下降する空気より低ければ、森が二酸化炭素をため込んでいるということです」

 森の吸収量はめまぐるしく変化する。「日差し、それにひょっとすると温度や過去1週間の降雨など、あらゆる要因が刻一刻と、森の働きを変化させます」と、ウーフシー。上空が雲に覆われるだけで光合成が抑えられ、炭素の吸収量は減る。葉が落ちて腐る冬には、植物の呼吸と腐敗によって、より多くの二酸化炭素が森林から大気に放出される。それでも10年余りの観測で得た膨大なデータを見る限り、ハーバード・フォレストは大気から炭素を取り込んでいるようだ。

 樹木や地面付近の環境を調べれば、森林の炭素吸収を確認できるはずだ。木の成長度合いを測定し、倒木や落ち葉を集めて重さを量る。こうして樹木など炭素を含んだ有機物が森の中にどれほどあるか調べ、その数値と大気の測定値との整合性を確かめる。結果は見事に合った。この森は面積1ヘクタール当たり、年間約2トンの炭素を取り込み、ささやかながら温暖化の進行を遅らせてきたのだ。

 米国東部の他の観測地点の森林も二酸化炭素を取り込んでいる。さほど意外ではないと、ウーフシーは言う。「東部の森林は、多くが樹齢40~60年で、まだ成長中なのです」

 農地を開拓するために広大な森林が切り開かれたが、20世紀の初めに農業の中心地が西部の大草原地帯に移ると、放棄された土地に森がよみがえった。まだ樹齢の低い木々はより高く太い大木に育つ。光合成によって、こうした木々に年々炭素が閉じ込められる。

 米国西部にも炭素の貯蔵庫がありそうだ。以前は草原地帯で頻繁に火事が発生し、メスキートやビャクシンの低木などを焼き尽くしては再生を繰り返していたが、ここ数十年の防火対策で、低木林が広がるようになった。

 しかし、そのために草原の自然のサイクルが断たれた。低木林はいったん火がつくと、より大きな森林火事になるが、大きな炭素の貯蔵庫ができたのも事実だ。ハワイとアラスカを除く米国の48州で、森林や低木林が吸収する炭素量は年間5億トンとみられ、米国の車と工場が排出する量の3分の1以上が相殺されていることになる。ウーフシーは言う。「(米国が批准を拒否している)京都議定書で定められた排出削減の目標値の4倍以上に当たります」

 北半球で吸収される炭素の総量から米国の5億トンを引くと、15億トン余りが残る。熱帯雨林やアラスカ、カナダの広大な針葉樹林などの成熟した森林は、大して貢献していないだろう。呼吸で吐き出す二酸化炭素の量以上に、成長のために光合成をして二酸化炭素を吸収することはなさそうだからだ。だが、欧州の人工林や、中国で新たに植林された森林、何十年もの伐採の後に再び成長し始めたシベリアの森林が、合わせて5億トンを吸収していると、研究者たちはみている。

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