/2002年9月号

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特集

水の危機

SEPTEMBER 2002

限られた
地球資源の行方



世界で12億人が汚れた水を飲用

 最近の国連の発表によると、現在のペースで水が消費されれば、2025年までに27億人が深刻な水不足に直面する。世界人口は、現在の60億人から2050年には90億人になるとみられている。地球上の淡水の量は増えないから、このままでは水不足になるのは確実だ。地球上の水の97%近くは海水で、残りの約2%は凍結した極地の氷床と氷河。残る1%のうち飲用や灌漑用、工業用に利用できる淡水はごく一部にすぎない。

 しかし深刻な水不足は、何も将来の問題ではない。すでに推定12億の人々が汚れた水を飲み、約25億人が下水道の整備されていない地域で暮らしている。そのためコレラや赤痢など水に関連した感染症で、年間500万人以上が死亡している。また農業用や生活用に地下水が大量にくみ上げられ、地下水位が下がっていることも世界各国に共通する問題だ。

 私は2カ月かけてアフリカやインド、スペインを取材するうちに、この問題に果敢に取り組む多くの個人や組織、企業の存在を知った。古来の技術をよみがえらせる試みもあれば、21世紀の技術を生かした試みもあったが、共通していたのは次の2点だ。第一は、一滴一滴の水を最も効率よく利用しようとする姿勢。第二は、地域に根ざした解決策と市場原理を生かして水資源を守るキャンペーンを進めようとする信念である。

 地球上では膨大な量の淡水が浪費されており、より効率的な利用法が緊急の課題になっている。消費量が多いのが農業用水で、全体の70%を占める。人口の増加に伴って食料需要が増え、灌漑が無制限に行われれば、川や湿地や湖沼が干上がる恐れがある。

 中国の黄河は、流域各地で農業用や生活用に取水したため、この10年間はほとんど河口の手前で流れがなくなっている。北米でも、コロラド川の水位がカリフォルニア湾に注ぐ河口付近で異常に低下。また昨年にはリオ・グランデ川がメキシコ湾に達する前に枯れてしまった。旧ソ連時代から綿花など畑の灌漑用水に使われてきた中央アジアのアラル海は、かつての面積の半分になった。このほかにも、世界各地で数え切れないほど川が消えている。

古来からの雨水の利用技術

 水の浪費がもたらす結果を知るには、インドのラージャスターン州の南西に位置するグジャラート州を訪れるとよい。この州も乾燥地で、灌漑農業が急速に広まった。

 春の暑い日に州北部を訪れると、小麦、マスタードのとれるカラシナ、セリ科のアニスなどの平坦な緑の畑の中に、レンガ造りのポンプ小屋があった。小屋の中には電動ポンプがあり、毎日10時間、地下水をコンクリート製のタンクにくみ上げている。そこから近くの畑に水が引かれている。

 ポンプの所有者の一人で70歳のネムチャンドバイ・U・パテルが、薄暗い小屋の中で簡易ベッドに横たわっていた。その耳元に、地下の帯水層からくみ上げられてタンクに流れ込む水の音が、子守歌のように聞こえてくる。

 私に気付いて目を覚ましたパテルは、質問に答えてくれた。このポンプでくみ上げた水で、彼と共同所有者たちの畑のほかに、水を買っている農民50人ほどの畑を潤しているという。

 ポンプがなければ雨水だけが頼りだが、それでは安定して水を確保できない。この地域の年間降水量はわずか650ミリで、ほとんどが夏の集中豪雨でもたらされる。「井戸のおかげで、生計を立てられるようになったよ」と、パテルは言う。

 パテルの土地に水をもたらした電動ポンプは、インドの“緑の革命”の原動力となってきた。地下水を大量にくみ上げられるようになって食料生産が増え、10億の人口を養えるようになったのだ。灌漑用の電動ポンプは、50年代半ばにインド全土で10万台足らずしかなかったが、今では2000万台が稼働しており、さらに毎年50万台ずつ増えている。

 だが、地下の帯水層に水が自然にたまるより速いペースで水をくみ上げたため、インドの約半分の地域で地下水位が低下したり、沿岸部の井戸に塩水が流れ込むなどの深刻な被害が出ている。

 パテルの畑では、40年前は30メートル掘れば水が出たが、今では150メートルも掘らないとだめだ。パテルは次々に深い井戸を掘っているが、新しい井戸を掘るのに法外な金がかかるようになった。

 「そのうち、水がまったく出なくなるだろう」と、近くの井戸の所有者モハンブハイ・G・パテルは言う。「私たちがくみ上げている水は、何千年もかかってたまったものだ。ちょうどこの壷と同じさ。ただ飲むだけで水を補給しなければ、いつか空になる。帯水層に再び水をためるために政府が大規模な施策を打ち出さないと、ここでは生活できなくなる」

 インドだけでなく世界中の農民が無制限に地下水をくみ上げてきたのは、一つにはコストがほとんどかからなかったからだ。インドでは水はただで、ポンプを動かす電気料金も政府が大幅に補助している。電気料金は、ポンプの稼働時間に応じて支払うのではなく、定額のわずかな年間使用料を払えばいいので、農民はどんどん水をくみ上げる。

 灌漑用、生活用を問わず、地下水の過剰なくみ上げは世界中で問題になっている。米国の農家は、グレート・プレーンズ(ロッキー山脈の東に広がる大草原地帯)の下にあるオガララ帯水層から大量に水をくみ上げたため、すでにテキサス州ではこの帯水層の約3分の1が枯渇している。

 中国の小麦とトウモロコシのおよそ半分を生産する華北平原の地下水位も年々下がっている。淡水の専門家サンドラ・ポステルによると、今のペースで地下水が減り続ければ、中国とインドの穀物生産は今後数十年で10潤E20%減少するという。

 ラジェンドラ・シンが、地下水の過剰くみ上げで水不足に陥っていたインド・ラージャスターン州北西部に初めて向かったのは、今から20年前。インドの農村部の貧しい人々を救おうと理想に燃えていた。

 現地に着いて間もなく、彼は二つのことに気付いた。第一は、干ばつの多いこの地域の村々を救う鍵は水管理であること。第二は、農民たちが地下水をくみ上げ過ぎていることだ。

 村の長老が、この地方に数多くある土の堰をシンに見せてくれた。堰は崩れ、貯水池は土砂で埋まっていたが、それらはインドに5000年前からあった伝統的な雨水利用施設の名残だった。堰と貯水池を使って雨水をため、その水を引くため、短い雨期の間に降った豪雨を年間を通じて利用できる。

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