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Q:太古の昔から大規模な移動を繰り返してきたアフリカ、セレンゲティのオグロヌー。その大移動で正しいのは次のうちどれでしょう。

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特集

コンゴ
溶岩から街を守れ

APRIL 2011

 溶岩湖の直径は、世界最大級の200メートル。オレンジ色の亀裂がジグザグに走る黒い表面は、激しく波打ち、万華鏡のように刻々と変化する。ジェット機が離陸するときのような轟音(ごうおん)を立て、白い噴煙を上げていた。その煙には、数十種類もの有毒ガスが含まれている。

 溶岩の温度は約980℃。火口の縁に立っているだけでも、その熱を感じた。溶岩は数分おきに閃光(せんこう)を発して爆発し、数十メートルの高さまで飛び散る。オレンジ色のしぶきは空中でアーチを描くうちに冷えて、黒く固まる。溶岩湖の表面は、生き物が呼吸しているかのように膨張と収縮を繰り返し、その高さは数分のうちに1メートル以上も変化していた。

 シムズはこの光景に圧倒された。そして長い沈黙のあと、溶岩湖を指さして言った。「何としても、あそこからサンプルを採取したい」

火口に降りる

 シムズは50歳。ロッククライミングの愛好家で、以前は登山ガイドを務めていた。現在は米国ワイオミング大学の教授で、妻と二人の小さな子どもがいる。

 火山の研究は決して安全な仕事ではない。過去30年間に、20人以上の研究者が火山の調査中に死亡している。シムズの右腕には、イタリア・シチリア島のエトナ山で負った傷が残っている。シャツが溶岩の熱で溶けたのだ。

 一方のテデスコは、おしゃれで食通の51歳。気性が激しくて、登山経験は乏しい。ただでさえ荷物が重いのに、エキストラバージンのオリーブ油を大瓶で持参していた。ローマの郊外に妻と十代の娘と暮らし、ナポリ第2大学の教授を務めている。だが、ニイラゴンゴ山について話し出すと、学者らしい冷静さがすっかり消えてしまう。「私はゴマの街が大好きなんです。一番恐れているのは、噴火を予知しそこなうことです」とテデスコは語る。

 シムズを先頭に、山頂からロープを使って火口の内部に降りた。ニイラゴンゴ山はアフリカ大陸を東西に引き裂く大地溝帯に位置していて、絶えず小さな地震が起きている。地震のたびに、小石ががらがらと斜面を転がり落ち、小さな家ほどもある巨石がぐらぐら揺れる。山全体が今にも崩れるのではないかと思えるほどだ。

 調査隊は火口の縁から250メートルほど下にある岩棚に、キャンプを設営した。岩棚は火山灰や軽石、ガラス質の噴出物などに厚く覆われていた。そこから100メートル余り下では、溶岩湖が轟音を上げている。

 溶岩湖からは、酸性雨の主成分である二酸化硫黄が毎日6300トンほども噴き出す。これは全米のすべての自動車と工場が排出する量を上回る。「この火山は巨大な煙突みたいなものですよ」とテデスコが説明してくれた。

しとしと降る雨が噴気孔を濡らした。ガスマスクは、すでによれよれにくたびれていた。数日後には、装備のジッパー部分が腐食し、カメラのレンズも傷み始めた。

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