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アラスカぐるっと176日

MARCH 2011


 アウトドアの世界でスクルカの名声を確固たるものにしたのは、2007年の米国西部のトレイルをループ状に結んで歩き通すという、前代未聞の挑戦だった。彼はこの偉業を1日に平均53キロ移動する驚異的な速さで成し遂げた。

 しかし、事前に1日の移動距離を決めるスクルカの手法でアラスカを踏破できるかは疑問だった。アラスカを知り尽くした冒険家ロマン・ダイアルは、スクルカのやり方はアラスカでは通用しないと語る。長距離とは言え、整備されたトレイルをたどるのと、山の稜線(りょうせん)やけもの道、小石だらけの川筋を頼りに移動するのとでは、話は全く違うのだ。

 スクルカは、アラスカ一周の挑戦でも、1日に38~40キロ進む計画だった。挑戦の前年の2009年には、アラスカの地形をよく知るため、アドベンチャー・レースの草分け的存在のアラスカ・マウンテン・ウィルダネス・クラシックに参戦し、優勝もしている。

 しかし、ダイアルはこの若い冒険家の頑(かたく)なさに不安を感じていた。「スクルカは周囲に目を配ることができないように思える。前進することだけに専念しているが、アラスカではそうしたやり方がいつも得策とは限らない」。より重要なのは、スクルカがこのアラスカ一周の挑戦を楽しめるかという点だった。ダイアルに言わせれば、情け容赦ない極北の荒野で、過酷な数カ月を生き延びるには、この“楽しむ”という資質が欠かせないという。

 綿密に計画するスクルカのやり方では、揺れ動く感情と向き合うゆとりがほとんどない。しかし、数週間も独りきりで旅を続けるうちに、スクルカに変化が訪れた。挑戦の途中で合流し、5月の暴風雪をともにしのいだダイアルはその変化に気づいたという。

 ランゲル=セント・エライアス国立公園のチティストーン峠を越える際、スクルカは厳然として前進を続けた。「一緒に峠越えをする相棒としては楽しい相手ではなかった」と、ダイアルは振り返る。しかし、その2日後、マッカーシーの町に到着した時のことだ。スクルカは町に偶然いた旧友に誘われ、ソフトボールの試合に加わった。そして、ビールを飲んでは地元の女性たちをからかっている。大冒険の途中にあるとは思えないほど、ごく普通の男の姿だった。「心底リラックスしていた。人生の楽しみを思い出したようだった」と、ダイアルは話す。

アラスカを一周して

 数カ月後、ブルックス山脈の東側で、スクルカ自身が新たな変化に気付いた。2日間、彼は群がってくる蚊などの虫に悩まされていた。やがて、暴風雨がやって来て、テントは地面から引きはがされそうになる。食料が底を尽きかけ、孤独と荒涼とした土地に痛めつけられ、気力は衰えていった。そうしたなか、スクルカはもはや地図など必要ないことに気付く。カリブーの大群が太古から移動し、踏みならしてきた道こそが、自分がたどるべき道だと悟ったのだ。

 原野を移動する動物と自分との間にどのような違いがあるのか? 冒険の間中、自分の心象をビデオカメラに録画していた彼は、カリブーや天候のこと、周囲の万物と同じく自分もまた自然に生かされている小さな存在なのだという心境をカメラに向かって独白した。そしてまた、涙を流した。「自分がなぜ泣くのか、なぜこの動物たちの通う道を見て泣くのか、分からなかった……自分はこのカリブーと同じだ。この地上に存在する生き物のひとつに過ぎない」

 冒険を終えたスクルカは「謙虚な気持ちになった」と語る。そして、謙虚さを知ることができたことこそ、アラスカを一周して彼が得た最大の収穫だったのかもしれない。

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