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花粉の運び屋たち

MARCH 2011


 しかし、この送粉システムは、大規模農業によって徐々に破壊されている可能性がある。養蜂が始まって以来、病気や寄生虫の問題は常にあったが、2006年の被害は特に甚大だった。この年の冬、ミツバチの数が減り始め、米国では個体数の3分の1~2分の1が失われた。一部の養蜂業者は90%近くのコロニーが全滅したと報告している。この不可思議な現象は「蜂群崩壊症候群(CCD)」と命名され、以後、毎年繰り返されることになる。

 CCDの影響が出始めた当初は、農薬の大量使用が原因と考えるのが一般的だった。実際、「例え低レベルでも、農薬に触れたハチのほうが病気にかかりやすいのです」と、米農務省ミツバチ研究所のジェフ・ペティスは言う。ただし、CCDには複数のストレス要因が関係している可能性が高い。例えば、栄養不良と農薬がハチの免疫系に打撃を与えた後に、ウイルスがとどめを刺すことも考えられる。因果関係を明らかにすることは難しいと、ペティスは指摘する。最近の研究により、これまでハチに害があるとは思われていなかった殺菌剤が、ハチの体内で花粉を分解する真菌類の働きを阻害している可能性があることが分かった。これが栄養分の吸収を妨げ、健康に悪影響を与えているという。また、ウイルスと真菌類の病原体の双方が関与していると指摘する研究もある。

 この被害は野生の送粉者にも広まり、ある種のマルハナバチはめったに目撃されなくなった。だが、セイヨウミツバチに比べ、価値が低いと思われている野生の送粉者は、長期的な観察がほとんど行われていないのが現実だ。

送粉者がカギを握る未来の暮らし

 では、CCDにどう対処すべきなのか。重要なのは送粉者にとって必要なものを増やし、不要なものを減らすこと。そして野生の送粉者にも“仕事”をさせ、飼育されているミツバチの負担を軽くすることだと研究者は指摘する。バックマンは、病原体と戦うためには免疫系を最善の状態に保つことが必要であり、それには農薬の利用を減らすことも解決策の一つだと言う。

 さらにバックマンは、生息環境の消失や変化が、送粉者にとって病原体以上の脅威になっていると指摘する。そこで、カリフォルニア大学バークレー校の保全生物学者クレア・クレメンは、道路脇やトラクター置き場など、農場周辺に開花期の異なる野生の花を植えることを奨励している。単一栽培ではなく複数の作物を育てれば、「野生の送粉者だけでなく、農業全体にも良い効果があります」と、クレメンは語る。

 少し工夫をすれば、都会で送粉者を育てることもできる。最近の研究では、商品作物に依存するハチよりも、農地の外にいるハチのほうが健康的で、多様な餌を食べていることが分かっている。ニューヨークのビルの屋上にもハチの巣箱が置かれているが、これがセントラルパークなどの公園の緑を育てるのに一役買っているという。「生息環境を確保すれば、送粉者は増える」―とても単純明快な考えといえるだろう。それに幸いなことに、特定の送粉者だけを受け入れる植物よりも、さまざまな送粉者が訪れる植物のほうがずっと多い。「ある送粉者がいなくなっても、通常は代わりを務める送粉者がたくさんいます」。バックマンは、植物が丈夫に育つためのカギは、送粉者の多様性を向上させることだと指摘する。

 この多様性が破壊された場合、失われるのはハチミツだけではない。多くの顕花植物は姿を消し、リンゴや桃などの作物も収穫できなくなるはずだ。牛の飼料の栽培にはハチの送粉が欠かせないため、牛乳も手に入らなくなるだろう。コーヒーやチョコレート、キャノーラ油、バイオ燃料用の穀物もしかりだ。全世界の80%を供給する米国のアーモンド栽培業者は、栽培期間中、国内の養蜂業者から巣箱の3分の1以上を借りている。だが、この世界最大の送粉ショーを見られなくなる日もくるだろう。

 綿花や亜麻の一部も栽培を送粉者に頼っている。鳥やハチ、さらにはコウモリやチョウがいなくなれば、風や水など、彼ら以外の手段で受粉する農作物しか生活に利用できなくなるとクレメンは言う。「私たちの暮らしは、ある意味“風まかせ”になってしまう可能性があるのです」

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