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特集

シリーズ 70億人の地球
地球を変える
「人類の時代」

MARCH 2011


 地質年代では一番大きな区分が中生代、新生代などの「代」で、代は白亜紀、第三紀などの「紀」に分かれ、紀は更新世、完新世などの「世」に分かれている。世は、数千万年に及ぶ場合もあるが、比較的短い区分だ。その区切りは、化石として出土する生物種の違いなど、堆積層に残された痕跡を基に決められる。

 もちろん、現在起きている出来事は、まだ地層には記録されていない。人間が地球環境に及ぼす影響は、この先、地層にはっきり残るだろうか。ザラセウィッチらは、「イエス」という答えを出した。とはいえ、その痕跡は私たちの想像するものとは違うかもしれない。

未来に残る痕跡とは

 人類による地球環境の改変で最も目につくのは、都市の建設だろう。都市は、鉄鋼やガラス、コンクリートで埋め尽くされた巨大な人工空間だ。だが、そのほとんどは長い間には跡形もなく消えてしまう。理由は単純で、陸上では風雨による浸食作用が激しく、堆積が進まないからだ。今の時点で最も目立つものが、地質学の時間尺度では「おそらく最もはかなく姿を消すでしょう」と、ザラセウィッチは話す。

 農業もまた、環境を変えた。今では、地球上の氷結していない地域の4割近くが農地として利用されている。だが、農業も長期的にはかすかな痕跡しか残さないだろう。

 未来の地質学者は、現代の大量生産方式の農業の規模を、花粉化石を手がかりに推測することになる。雨林や草原だった場所からは、多様な花粉化石が見つかるが、小麦や大豆などの単一栽培が行われていた畑の跡からは、1種類の花粉化石しか見つからないからだ。

 世界中で進む森林伐採は、少なくとも二つの痕跡を残すだろう。一つは、伐採後の裸地から流出する土砂だ。地域によっては、土砂の堆積量が増えた跡が残る。ただし、海まで運ばれるはずの土砂がダムでせき止められることもあるから、判別は難しいかもしれない。

 森林伐採のもう一つの痕跡は、動植物の絶滅だ。森林が消えて生息地が失われることが、動植物の絶滅を促す主な要因となっている。地球では今、過去5億年間の平均的なペースの何百倍、いや何千倍もの速さで生物が姿を消している。

 地質学の時間尺度で最もよくわかる痕跡は、肉眼では見えない大気の化学組成の変化だろう。二酸化炭素(CO2)は無色無臭で、排出されても短期的には無害だ。しかし、その温室効果は、地球の気温を過去数百万年で最高のレベルまで押し上げている。動植物のなかには、温暖化の進行で寒冷な地域へ生息域を移したものもあるが、こうした変化は化石記録として残る。

 大量の石炭と石油を燃やした痕跡は、自動車や都市、工場の残骸がすべて砂塵(さじん)に帰してからも、長期にわたって残るだろう。CO2は気温を押し上げるだけでなく、海水中にも溶け込み、海水を酸性化する。今世紀中には、サンゴ礁が形成されなくなるほど、海水の酸性化が進む可能性がある。そうなれば、遠い将来、サンゴの化石が出土しない地層が発見されるはずだ。過去5回の大絶滅でも、その年代の堆積層からはサンゴの化石が見つからない。

 白亜紀の終わり、今から6500万年前に起きた5回目の大絶滅は、巨大隕石(いんせき)の衝突が引き金になったと考えられている。この大絶滅では、恐竜が姿を消しただけでなく、首長竜、翼竜、アンモナイトも絶滅した。この白亜紀の大絶滅以来の大きな変化が現在の海洋で起きていると考える専門家は多い。人間活動が地球に与える影響は、未来の地質学者の目には、巨大隕石の衝突と同じくらい突発的で激しい現象に映るかもしれないと、ザラセウィッチは話す。

「人新世」の始まりはいつ?

 すでに人新世に突入しているなら、その始まりはいつだろうか。

 米国の古気候学者ウィリアム・ラディマンによれば、本来なら地球は再び氷期に入るはずだったが、約8000年前に農耕が始まり、それに伴って森林伐採が進んだために、大気中のCO2が増えて寒冷化が食い止められたという。人間は完新世の初めから地球に大きな影響を与えてきたと、ラディマンは考える。

 一方、クルッツェンは、18世紀末が人新世の始まりだと考えている。氷床コアの分析で、このころから大気中のCO2濃度が上がり始めたことが確認されているからだ。他には、人口と消費の増加が一気に加速した20世紀半ばを人新世の始まりとする専門家もいる。

 今、国際層序学会(ICS)は、ザラセウィッチを長とする委員会を設けて、「人新世」を地質年代として正式に採用するかどうかを検討している。その報告を受けて、最終的にICSとその上部組織である国際地質科学連合が、投票で採用の可否を決める。

 最終決定までにはまだ何年もかかるだろうが、決定が先に延びるほど、人新世への突入を示す証拠が増える可能性もある。科学者の間には、人間の活動が地質学的に重要な痕跡を残すのは今後数十年であり、今はまだ人新世に突入していないとの見方もあるからだ。「現時点で人新世を認めるか。それとも、あと20年、事態がさらに悪化するのを待つつもりなのか」。英国レスター大学の地質学者マーク・ウィリアムズは、そう問いかける。

 議論の口火を切ったクルッツェンは、地質年代を見直すことに意義があるわけではないと言う。人新世という概念を提唱するのは、もっと大きな目的のためだ。自分たちの活動が地球にどんな影響を及ぼしているかを、人々に自覚してもらうこと。そして、今からでも最悪の事態を避ける方法があるのではないかと、考えてもらうことだ。「人新世という言葉が、世界への警告となればいい。私はそう願っています」

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