/2011年3月号

トップ > マガジン > 2011年3月号 > 野生動物 ペットへの道


定期購読

ナショジオクイズ

現在の歯ブラシの原型が登場したのは15世紀末の中国。当時、ブラシの部分に用いていたのはどの動物の剛毛?

  • ブタ
  • パンダ
  • ハリネズミ

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

野生動物 ペットへの道

MARCH 2011


 それでも、私たち人間にとって身近な動物たちのDNAを調べれば、貴重な手がかりが得られるはずだ。2009年、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の生物学者ロバート・ウェインは、オオカミとイヌのゲノムを比較解析した。両者で大きく異なっていたのが、WBSCR17という遺伝子だ。この遺伝子と同じ領域に、「イヌの家畜化のきっかけとなった遺伝子」があるのではないかとウェインたちは考える。また人間では、ウィリアムズ症候群という珍しい遺伝子病に部分的ながら関与しているのが、このWBSCR17遺伝子だと言われている。ウィリアムズ症候群は、おとぎ話の妖精を思わせる上向きの鼻や、「極端なほどの社交性」が特徴だ。患者は人なつこく、見知らぬ他人でも容易に信用してしまう。

 研究結果の発表後、ウェインの元にさまざまな反響が届いた。「電子メールでいちばん多かったのが、ウィリアムズ症候群の子どもを持つ親からのものでした。他人の行動を巧みに読み、他人との間に壁を作らないわが子は、まさにイヌを思わせるというのです」。妖精のような顔だちも、ある意味で家畜化の表現型の一つとも思える。研究者たちはこの関連に強い関心を持ち、さらに掘り下げたいと考えているようだ。

社会的行動の起源を探る

 2003年、米国デューク大学のブライアン・ヘアがノボシビルスクを訪れた。この若い研究者は、イヌとオオカミの特徴的な行動を分析することで、指さしや目の動きといった人間のしぐさをイヌが読みとり、それに従うように進化していった過程を解き明かした。

 ノボシビルスクの実験場で、ヘアが子ギツネにそうしたしぐさをやってみせたところ、同年齢の子イヌと同じ反応があった。恐怖や攻撃性を取り除く方向で交配を続けていけば、キツネは人間になれるだけでなく、人間と社会的に結びつくイヌ並みの能力を発揮するかもしれない。

 ヘアは「気だてのいいキツネをめざして交配していたら、賢いキツネができたわけです」と言う。この研究は、人間の社会的行動の起源を探るうえでも大いに役立ちそうだ。ヘアはさらにこう続けた。「私たち人間がイヌと同じように家畜化されたかというと、そうではありません。でもサルのような祖先からヒトに進化するには、まず互いの存在に寛容になることが必要だったはずです」

 ノボシビルスクを離れる日の午後、クケコヴァと私、通訳のルダは実験場の裏にある囲いの中でマヴリクと遊んでいた。マヴリクはボールを追いかけたり、仲間とじゃれ合ったりしたあと、こちらに駆け寄ってきた。抱き上げてやると顔をぺろぺろなめる。1時間ほどして、クケコヴァは彼をケージに戻そうとした。それを察したマヴリクは甘えるようにくんくん鳴き、落ち着きなく動き回った。まるでペットのイヌのように、人間にかまってほしくてたまらないのだ。

 だが、このプロジェクトの目的はあくまで科学実験である。人になれないキツネや、攻撃的な性質が中途半端で研究に不向きなキツネは、頭数調節のため毛皮用に売られていった。

 最近では、人になれたキツネの余剰分はペットとして国内外に販売できるように、当局とかけあっているという。これが実現すれば、研究用途に適さないキツネに新たな居場所を見つけてやれるだけでなく、研究続行のための資金源にもなる。「キツネたちの数を減らさないために、できる限りのことをしているんです」とトルートは言う。

 マヴリクのその後もお伝えしよう。通訳のルダは栗毛のマヴリクとその遊び友達がすっかり気に入り、ペットとしてもらいうけることにした。数カ月後、モスクワ郊外にある彼女の別荘(ダーチャ)にマヴリクたちがやってきた。まもなく彼女は近況を電子メールで知らせてくれた。「マヴリクとピョートルは、私が餌をやるためにかがむと背中に飛びついてくるの。なでてやるとおとなしく座りこんで、私の手からビタミン剤を食べるのよ。2頭とも最高にかわいいわ」

Back5

年間購読のお申込はこちら

ナショナル ジオグラフィック バックナンバー