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ようこそ、
パリの地下世界へ

FEBRUARY 2011


地下を愛するカタフィル

 カタフィルにもさまざまなタイプがいる。たまにしか地下に潜らず、知っているルートしか足を踏み入れない者もいれば、頻繁に地下に入って未知のルートに挑む筋金入りもいる。

 私は、次なるガイドと閑静な地域にある公園で落ち合うことにしていた。待っていたのは、青色のカバーオールを着た二人の男性で、傍(かたわ)らにはスキューバダイビング用のタンクや用具が置いてある。乳母車を押す母親たちが彼らを怪訝(けげん)そうに見つめていく。ガイドのドミニクは修理工。もう一人はベテラン洞窟ダイバーのヨーピー(本名は最後まで明かしてくれなかった)。コンピューター・グラフィックスのデザイナーで、2児の父親とのことだった。私たちはさっそく橋の下にある秘密の入り口に向かった。ちょうど泥だらけの男性が穴から這(は)い出てきた。独身お別れパーティーの準備をしてきたのだという。

 パリの地下空間のほとんどは地図に記録されている。18世紀にギヨモーが手がけた地図も精密だったが、その後、何度も新しい情報が付け加えられた。しかし、カタフィルたちは独自に地図を作っていて、ヨーピーのように地図の空白部分を埋めることに情熱を傾ける者もいる。私たちはいくつもの坑道を通って、“ブラックホール”を目指した。ヨーピーが今日、どうしてもたどり着きたいと思っている地点だ。

 坑道には大きな穴が開いているものも多い。深くて水がたまった穴もあれば、秘密の空間とつながっている穴もある。ヨーピーはこれまでそんな穴にいくつも潜ってきたが、今日の穴は前人未到らしい。レギュレーター、マスク、ハーネスを確認した彼は、ヘッドランプが2個ついたヘルメットをかぶって水がたまる穴に飛び込んだ。

 数分後、大きな泡とともにヨーピーが水面に戻ってきた。彼の話によれば、穴の深さはおよそ5メートルで、底には何もなかったという。それでも地図の空白がひとつ埋まったことは確かだ。

 それから数時間、私たちはカタコンブをうろついた。積まれた骨は朽ちかけているが、壁に描かれた大きな絵は色も鮮やかだ。ヨーピーが地図に載っていない“部屋”に案内してくれた。彼は友人たちと何年もかけてセメントを運び込み、石灰岩のブロックを配置して、ベンチとテーブル、寝台を作ったという。そこは清潔で居心地が良かった。壁にはろうそくを置くくぼみまで掘ってあり、暖かい光がベージュ色の石を照らしていた。私はヨーピーに、地下世界の魅力について尋ねてみた。

 「ここには上司も親方もいないからな」と、ヨーピーは答えた。「酒を飲んで騒ぐ奴も多いし、絵を描くのもいる。創作にふけったり、探検するために地下に来る奴もいる。ここでは誰もがやりたいことをやる。ルールなんてないんだ。でも地上では、そうはいかない」

 ヨーピーは手を振って笑顔を見せると、たばこに火をつけた。「『幸せになりたければ、身を隠せ』。これが俺たちの合言葉だよ」

パリの暮らしが見える下水道

 ヴィクトル・ユーゴーは代表作『レ・ミゼラブル』の中で、パリの下水道は「都会の良心」だと書いた。そこから眺めれば人間はみな等しく見えるからだ。しかし、下水道作業員のパスカル・キニョンは下水道をより具体的に知っている。爆発性のガスだまりや伝染病、中国人街の地下にいるという巨大なネズミ……。この道20年のベテランの彼は、仲間と一緒に14区での作業に取り掛かるところだった。

 書店脇の路地で、私たちは白い防護服と腰まである長靴に着替え、ゴム手袋をつけ、白いヘルメットをかぶった。マンホールの蓋を開けると、生暖かい空気が立ち上ってきた。

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