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船を沈めて魚の楽園に

FEBRUARY 2011

文=スティーブン・ハリガン 写真=デビッド・デュビレ

や地下鉄の車両を海に沈めて魚のすみかをつくる――
米国沿岸に散らばる「人工魚礁」を取材した。

 米国フロリダ州キーウエストから11キロの沖合で、ミサイル追跡艦「ジェネラル・ホイト・S・ヴァンデンバーグ」はわずか2分あまりで海底に沈んだ。2009年5月のある晴れた朝、喫水線より下の艦内に46個の爆弾が仕掛けられたヴァンデンバーグから、くぐもった爆発音が次々と響いた。黒煙がもうもうと立ち込め、火薬のきついにおいが、そよ風に乗って辺りに漂ってくる。

 全長159メートルもあるヴァンデンバーグは、爆発の衝撃を受けたようには見えなかった。用済みになった2基の円形レーダーも、艦体の上にそびえ立ったままだ。ヴァンデンバーグはしばらく海上に浮かんでいた。

 報道関係のヘリコプターが上空を旋回し、見物客を乗せた船が、爆発圏外の海上でエンジンをアイドリングさせている。何千人もの人々が見守るなか、ヴァンデンバーグは完全に水平を保ったまま、静かに大西洋に沈み始めた。やがて船首を下げ、船尾を突き立てる姿勢で、白濁した渦だけを残して水没した。

 「もう今日の午後には、この沈没船に魚がすみ始めますよ!」。ジョー・ウエザビーがそう断言した。ウエザビーは、ヴァンデンバーグを海底に沈めて魚の集まる人工魚礁(ぎょしょう)に仕立て、ダイバーや釣り人の集まるキーウエストの名所にする巨大プロジェクトを推進してきた人物だ。

 もちろん、故意に海底に沈められ人工魚礁となった船は、ヴァンデンバーグが最初ではない。フロリダ半島の南に細長く連なる列島、フロリダキーズの沖には、米沿岸警備艇の「デュアン」や「ビブ」、米海軍の揚陸艦「スピーゲル・グローブ」が沈んでいるし、フロリダ州西部の町ペンサコーラから約30キロの沖合には、米海軍の空母「オリスカニー」が丸ごと沈没している。意図的に沈められて人工魚礁となった世界最大の船舶だ。ほかにも、メキシコ湾や大西洋、太平洋などの米国の沿岸部には、第二次世界大戦中に建造された「リバティー船」と呼ばれる貨物船が数十隻も沈んでいる。

 世界では古くから、難破船が魚たちの格好のすみかになることが知られていた。現在、こうした人工魚礁には、使い古しの冷蔵庫やショッピングカート、廃棄自動車、自動販売機などの廃品が使われることが多い。現役を退いた地下鉄の車両や旧式の戦車、装甲兵員輸送車、石油採掘用の油井まで、海中に沈めることができればたいていの物が人工魚礁になる。なかには、「リーフ・ボールズ」のように、魚のすみかにするため特別にデザインされた人工魚礁もある。リーフ・ボールズは、ハチの巣のような形をしたコンクリート製の造形物だ。

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