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特集

世界最大の洞窟を
踏破した!

JANUARY 2011

文=マーク・ジェンキンス 写真=カーステン・ペーター

トナム東部、密林の地下に横たわるソンドン洞窟。世界最大とみられる洞窟の“終わり”を探す調査に、探検家や科学者が挑んだ。

「犬の手を過ぎたら、恐竜に注意だ」暗闇の中で声がする。

 ジョナサン・シムズの軍隊なまりの英語を聞き取れはしたものの、私には何のことだかわからない。ヘッドランプを向けると、洞窟の壁に沿った闇の中に彼の姿が見えた。

 「先に進んでくれ、相棒」と、シムズは言った。「いかれた足首を休ませてるだけだから」

 私たち二人は、轟音(ごうおん)を立てる地底川のラオツォン川にロープを張って渡り、とがった石灰岩を登って、砂の土手にたどり着いた。私が追跡しているのは、1年前の足跡だ。

 2009年春、シムズは第1次調査隊の一員として、ベトナム中部の奥地にあるソンドン洞窟(「山の川の洞窟」の意)に足を踏み入れた。ラオスとの国境に近いフォンニャ・ケバン国立公園の険しい地形の中。アンナン山脈にはソンドン洞窟を含む約150の洞窟があり、その多くはまだ調査の手が入っていない。

 第1次調査隊は洞窟の内部を4キロ進んだところで、高さ60メートルの石灰岩の壁に行く手を阻まれた。調査隊が「ベトナムの長城」と名づけた壁だ。壁の上には開けた空間がかすかに見え、光が差し込んでいたが、向こう側に何があるかはわからなかった。

 そして1年後、彼らは現場に戻ってきた。第2次調査隊は、筋金入りの英国人洞窟探検家7人と数人の科学者、荷物を運ぶポーターという顔ぶれ。彼らの目標は、もし可能なら長城を登り、洞窟内の通路の長さを測り、願わくば洞窟の端まで行くことだ。

闇を照らす光の柱

 巨大な岩の塊が落下して破片が積み上がった場所に出た。目の前に続いていた足跡は、ここで消えている。奥を見ようとしても、巨大な洞窟の中でヘッドランプの小さな光は役に立たない。星のない夜空を見上げているような気分だ。この空間には大型旅客機がすっぽり入るというが、それを確かめる術もなかった。

 闇の深さを実感するため、私はヘッドランプを消してみた。最初は何も見えないが、次第に目が慣れてきて、幽霊を思わせるかすかな光が前方に見えた。興奮した私ははやる気持ちを抑えて、岩石片の中を注意深く進んだ。急な斜面を横切り、尾根のような部分に出た。

 そこには日光の巨大な“柱”が滝のように洞窟に降り注いでいた。この光のおかげで、ソンドン洞窟の圧倒的な大きさが初めてわかった。幅は90メートルほど。天井の高さは240メートル近い。40階建てのビル群が丸ごと入る広さだ。天井付近には薄い雲まで漂っている。

 天井から差し込む光が、石筍(せきじゅん)(洞窟の天井から落ちた水滴中の炭酸カルシウムが堆積(たいせき)した突起物)を浮かび上がらせる。高さは60メートル以上。シダやヤシなどジャングルの植物にびっしりと覆われている。「天窓」を思わせる巨大な光の穴の周囲には、つららのような鍾乳石が垂れ、植物のつるがぶら下がる。穴から飛び込んできたアマツバメが、光の柱を横切る。

 前方にそびえる石筍は、横から見ると犬の脚に似ている。「『神の手』という表現は陳腐すぎる。でも、『犬の手』ならいい感じだろう?」

 シムズはそう言って、ヘッドランプを消した。

 「最初にここにたどり着いた時は別の探検家と一緒。二人とも4歳の息子がいて恐竜には詳しかった。それでこの景観全体を見て、コナン・ドイルの小説『失われた世界』から抜け出てきたように感じたんだ」と、シムズは言った。「彼が前方を調べにいく時、私は『恐竜に注意しろ』と言った。それでこの辺りを『恐竜に注意』と呼ぶようになったんだ」

 この調査隊の責任者を務めるハワード・リンバートと妻のデブは、20年前、洞窟探検家としては1970年代以降で初めてベトナムを訪れた。それまでベトナムの洞窟については、数々の言い伝えはあったものの、探検調査は行われていなかった。たとえば1941年、ベトナム建国の父ホー・チミンは、ハノイの北にある洞窟で日本やフランスに対する革命闘争の計画を立てたというし、ベトナム戦争中は、無数のベトナム人が洞窟に身を隠して米軍の空爆をしのいだ。

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