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新シリーズ
70億人の地球

JANUARY 2011


 人口が増え続けることはあり得ないとマルサスが宣言してから200年間、まさにそのあり得ないはずのことが起きた。人口の急増はまず、今の先進国で始まった。トウモロコシ、ジャガイモなど新大陸から入った作物が広まり、化学肥料が開発されたおかげで、ヨーロッパでは人々が飢えに苦しむことはなくなった。19世紀半ば以降、上下水道の整備が進むと、コレラやチフスなどの感染症の発生が激減した。

 さらに、マルサスが『人口論』を発表したその年、同じ英国人のエドワード・ジェンナーが天然痘ワクチンを開発したと発表。その後も、他の感染症に効くワクチンや抗生物質が次々に開発された。栄養の状態や公衆衛生が改善されたことも手伝って、先進国の平均寿命は当時の35歳から2倍以上延び、今日では77歳に達している。

 これは喜ばしい進歩だが、米国スタンフォード大学の人口生物学者ポール・エーリックはそこに危機の芽生えを見てとった。「医学の進歩が決定的な一撃となって、人口爆発が起きた」と1968年の著書『人口爆弾』に書いている。

 人口の増加にはもはや打つ手はなく、1970年代には「何億もの人々が餓死するだろう」とエーリックは予測した。人口増加という“がん”は、食料増産といった対処療法だけで治らないなら、人口抑制という“メス”で切除するしかないというのだ。

 この本はマルサスの著書と同様、ベストセラーになったが、このときもまた爆弾は不発に終わり、大惨事は起きなかった。穀物の品種改良や化学肥料の発達など、農業技術が進歩する「緑の革命」が起きて、穀物の生産量が倍増したからだ。今では、栄養不足の人々は多くいるものの、大規模な飢餓は起きていない。

 とはいえ、医学の進歩で平均寿命が延びれば人口が急増するという、エーリックの予測は正しかった。戦後、ペニシリンや天然痘ワクチンといった予防医療が急速に普及すると、インドでは平均寿命が1952年の38歳から現在の64歳に延び、中国では同時期に41歳から73歳に延びた。また、途上国の乳幼児死亡率も下がり、昔なら死んでいた何百万もの子供たちが、無事に成長して子孫を残せるようになった。

 18世紀のヨーロッパや20世紀初めのアジアでは、女性たちは生涯に平均6人子供を産んだ。子供の多くが幼くして死んでしまうため、それだけ産まないと子孫を残せなかったからだ。子供の死亡率が下がれば、やがて夫婦がもうける子供の数は減っていく。だが、出生率はすぐには下がらず、再び死亡率とのバランスがとれるまでには、少なくとも一世代の時間がかかる。その間に、人口の急増は起きるのだ。

 人口統計学では、こうした変化を、多産多死から多産少死、そして少産少死への「人口転換」と呼ぶ。時期は異なれど、どの国の人口もこうした段階をたどる。地球規模の人口爆発は、この過程で避けられない副作用と言える。

 だが実は、ちょうどエーリックが警鐘を鳴らしたころに、人口増加率はピークに達していた。1970年代初めには、世界の出生率は誰も予想しなかったほど急速に下がり始めていた。それ以降、人口増加率は現在までに40%余り低下している。

少子化が進む中国

 出生率の低下は世界的に起きているが、それが始まった時期は国によって異なる。フランスはいち早く低下した国の一つだ。18世紀初めまでには、貴族の女性が子供を二人以上産まずに済むよう、避妊法を使うようになっていた。

 当時の一般的な避妊法は、レーウェンフックが研究のために使った方法、つまり膣外(ちつがい)射精だ。貴族に限らず、フランス全体では19世紀末までに、今日のような避妊法がなかったにもかかわらず、一人の女性が産む子供の平均数は3人にまで減った。

 その理由は、避妊法ではなく、女性の意識の変化だと、パリの国立人口統計研究所のジーユ・ピソンは話す。啓蒙(けいもう)思想が広まる以前は「授かる子供の数は、神が決めるもの」とされていたのだという。

 第二次世界大戦が始まるころには、人口が増えも減りもしない水準(人口置換水準)近くまで出生率が下がる国が、他の欧米諸国のなかにも出始めた。戦後のベビーブームで出生率はいったん急上昇したが、その後再び大きく低下。先進国は次々に少子化の波に襲われて、出生率が人口置換水準の2.1を下回るようになった。ヨーロッパでは1990年代末の時点で出生率が1.4まで下がっていた。

 ベビーブームの終わりは、国家経済に大きな影響をもたらした。ベビーブーム世代が現役だった数十年間は、就労人口が増え、子供や高齢者の割合が低かったから、財政にゆとりがあった。その後、彼らが退職年齢に差しかかると、現役世代が高齢者を支えるシステムはもはや立ち行かなくなった。「2050年には、現役世代だけでは年金制度を支えられなくなるでしょう」と、オランダ人口総合研究所のフランス・ビレケンズ所長は話す。

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