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古代イスラエル
消えた王国

DECEMBER 2010


 マザールの動機そのものを疑う人もいる。発掘の資金は、シオニズム運動を精力的に推進する「ダビデの町」財団とシャレム・センターから出ている。祖父も考古学者であるマザールは、聖書の記述を頼りに発掘を行う聖書考古学の伝統を忠実に守っている。だが、今では多くの学者がこうした古い手法を批判する。聖書の記述を前提として発掘を進め、出土品を根拠に聖書の記述は真実だと主張するのは、非科学的な論法だというのだ。

 批判派の最先鋒(せんぽう)は、イスラエルのテルアビブ大学の考古学者イスラエル・フィンケルシュタインだ。彼を筆頭として、「低年代説」(ダビデ・ソロモン時代のものとされる遺跡や出土品ははるかに後代のものだとする立場)を唱える研究者は、イスラエル国内と周辺で見つかった多くの考古学的な証拠を基に反論する。聖書考古学者たちは過去数十年、ハツォル、ゲゼル、メギドで「ソロモン時代の」遺跡を発掘してきたが、フィンケルシュタインによれば、これらはダビデとソロモンの時代よりも100年ほど新しい、紀元前9世紀のオムリ王朝の王たちが建てたものだという。

 フィンケルシュタインによると、ダビデの時代のエルサレムはせいぜい「丘陵地帯の村」程度の規模で、ダビデは貧しい野心家にすぎず、「棍棒(こんぼう)を手に雄叫びを上げる500人ほどの軍団」を率いていた程度だったという。

 マザールの発見について聞くと、「むろん、ダビデの王宮などではない!」と頭ごなしに怒鳴った。「いや、努力は認めるよ。とても感じのいい女性だし、好感をもっている。だがこの解釈は、何と言うか、ちょっと単純だね」

 とはいえ、今のイスラエルの考古学界では、低年代説のほうが旗色が悪くなっている。マザールの他にも近年、二人の考古学者が相次いで注目すべき発見を発表した。その一人はエルサレムにあるヘブライ大学のヨセフ・ガーフィンケル教授。エルサレムの南西30キロにあるエラの谷で、ダビデの時代に築かれたと考えられるユダの都市の一画を発見したという。エラの谷は、若い羊飼いのダビデがゴリアテを倒したと聖書に書かれている場所だ。

 もう一人、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のトーマス・レビ教授は、死海の南にあるヨルダンのヒルバト・アッナハスで、8年前から広大な銅山遺跡の発掘を進めている。レビの推定では、ここで銅の採掘と精錬が行われていたのは主に紀元前10世紀。聖書によれば、当時この地域にはダビデと敵対していたエドム人が住んでいた。銅が大規模に生産されていたとすれば、ダビデとソロモンの時代には、すでに高度な経済活動が営まれていたことになる。

 「この銅山がダビデとソロモンのものだった可能性もあります。金属生産の規模からすると、古代の国家ないしは王国があったと考えていい」とレビは主張する。

 レビとガーフィンケルは、数多くの科学的なデータを基に自説を展開している。二人の主張が裏づけられれば、聖書に記されたダビデとソロモンの物語が史実である可能性が高まり、エドム人の登場が紀元前8世紀だとするフィンケルシュタイン一派の主張が否定される。「彼らもこれで終わりね」とマザールは溜飲(りゅういん)を下げる。

オリーブの種で年代測定

 「ゴリアテは実在しなかったかもしれません」とガーフィンケルは、エラの谷にある発掘現場ヒルベト・ケイヤファへと車を走らせながら話した。

 「巨大な都市から来たゴリアテという話が、何百年も語り継がれるうちに、巨人ゴリアテとなったのでしょう。比喩(ひゆ)ですよ。現代の学者は聖書がオックスフォード百科事典のように正確な文献であってほしいと考えますが、3000年前の人は事実を正確に記録したわけじゃない。夜にたき火を囲んで、口承で歴史を語り継いだのです。ダビデとゴリアテの物語も、最初はそうやって伝えられたのでしょう」

 ガーフィンケルはいかにも学者らしい風貌(ふうぼう)で、穏やかなユーモアのセンスの持ち主だが、その胸の内に大きな野心を秘めているのは明らかだ。イスラエル考古学庁の職員から、エラの谷に高さ3メートルほどの巨石の壁があると聞き、2008年からヒルベト・ケイヤファで精力的に発掘を進めている。

 ガーフィンケルが発見したのは、二つの壁の間に部屋がある城壁だ。北部のハツォルとゲゼルの都市遺跡にある城壁と同じ構造で、広さ2.3ヘクタール(東京ドームの半分ほど)の要塞(ようさい)都市を取り囲む形で立ち、城壁と隣接して住宅が並ぶ。こうした配置は、ペリシテ人の社会では見られない。

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