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特集

シリーズ 地球と、
生きる
動物たちの地球大移動

NOVEMBER 2010


 自然保護に携わる研究者たちは、国立公園局などの行政機関で働く生物学者や土地管理担当官と協力して、野生動物とその生態系だけでなく、移動行動そのものを守る取り組みもしている。たとえば、ブリッジャー=ティトン国有林の森林局は、グランドティトンに生息するプロングホーンが通過する地域を、連邦政府としては初めて、保護ルートとして認定した。とはいえ、森林局も国立公園管理局も、移動ルート上の私有地や土地管理局の管轄下にある、パインデールのガス田までは手が出せない。

 また、移動をするほかの動物のことも考え始めると、問題はますます複雑になる。保護すべき範囲はさらに広くなるし、より多くの管轄区域や国境が関係してくる。もちろん、懸念すべき障害も増える。

 一方、テキサス州南西部では、毎春、多くのカナダツルが北をめざす。ニューメキシコ州やオクラホマ州の一角をかすめて、カンザス州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、ノースダコタ州の上空を通過する。そしてカナダとの国境を越えてサスカチワン州に入り、進路を北西に変えてアルバータ州とブリティッシュ・コロンビア州を通過し、ユーコン準州から米アラスカ州を横切り、ベーリング海峡を越えて、ようやく夏の繁殖地であるロシア北東部に到達する。ざっと8000キロにおよぶ大移動だ。ツルたちは途中、ネブラスカ州のプラット川に立ち寄って仲間と合流する。毎年、北をめざす約50万羽のカナダヅルがこの中継地で休息するのだ。

 カナダヅルはプラット川に2~4週間滞在する。ほかのツルが到着するとこの地を離れるものもいるが、3月から4月にかけて、平均して約30万羽がこの川で過ごす。夜になると、ツルたちは流れの緩やかなプラット川の浅瀬に戻ってきて、砂州や冷たい水の中に立って眠る。そうすれば、捕食動物が近づいてきた時に、水しぶきの音で気づくからだ。

 朝、カナダヅルが飛び立つ光景は、巨大で美しい波のように見える。ツルたちは近くにある農場へ飛んでいき、刈り残されたトウモロコシや、ミミズなどの無脊椎動物をせっせと食べる。こうした休息期間は、生物学者のヒュー・ディングルが挙げた「寄り道をしない」という移動の定義には反しない。これは、渡りの本能に組み込まれ、何世代にもわたって繰り返されてきた行動なのだ。米ネブラスカ州からロシアまでの道のりはまだまだ長い。体重2.75キロほどのカナダヅルはこの休息期間で、約0.7キロの脂肪を蓄える。大移動を成し遂げるためには、浅瀬や砂州などの、安全かつ餌が豊富な休息地が必要なのだ。

 3月末のある朝、私はこの休息地を見下ろす高台に立ち、次々と川面から飛び立っていくツルの大群を眺めた。どの群れも飛び立つ時はぎこちないが、翼が風をとらえるにつれて優美な動きに変化し、一団となって方向転換しながら、その日の餌を求めて去っていく。そのさなかにも、ツルたちは独特の甲高い声で鳴き交わす。私の双眼鏡で見える範囲でも、おそらく6万羽のカナダヅルがいたはずだ。あふれ出る生命力をまざまざと感じさせる光景だった。

 夕方、休息地に舞い降りるツルを観察したこともある。ツルたちは暮れなずむ空を飛んで浅瀬に戻ってくると、じっと夜の到来を待つ。だが私は朝の光景のほうにより深い感動を覚えた。それはたぶん、日の出とともに飛び立っていくツルたちは、明確な目的をもっており、ただ休みに戻ってくるのとは違うからだ。脂肪を蓄えたツルたちの、旅の終着点は、安全で餌の豊富な繁殖地だ。カナダヅルは、そのひたむきさと、誘惑に屈しない強い意志をもって、次の世代に命を引き継ぎ、種を活性化させていく。私は「種の永続化」と書きかけたが、そうではない。確実に種を永続化できるとは限らないのだ。地上に永遠の生命などありはしない。

 私がプラット川で目の当たりにしたのは、カナダヅルたちが進化によって得た知恵と決意だった。人間がもし、ツルたちと同じくらいの知恵を獲得し、同じくらいの決意を呼び起こすことができれば、まだしばらくは彼らに旅を続けさせてあげられるのではないだろうか。

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