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シリーズ 地球と、
生きる
動物たちの地球大移動

NOVEMBER 2010


 アルド・ペデルゾーリというその男は、この一帯の土地を所有する農場経営者で、ヨルゲンセンの研究を好意的に受け入れている。80歳になるペデルゾーリは健康そうで、私が取材で来ていると知ると、「ガラガラヘビは大好きだよ」と言った。別に皮肉ではなかった。ヘビが多ければ、作物を荒すジリスに悩まなくて済むという。彼は片手で大きな輪を作ると、懐かしそうにこう語った。「若い頃は、休耕地に種まきをしていると、丸々と肥えたこんなに太いガラガラヘビをよく目にしたが、それほど大きなヘビはもう見かけなくなった。ジリスだって、川の近くの巣穴から移動して、10キロも離れた草原にもたくさんいたけど、もうそんなことはなくなったよ」

 これは仮説にすぎないが、ヨルゲンセンは次のように考えている。彼の研究しているガラガラヘビのグループは、自然選択(この場合、長距離を移動するヘビが死ぬこと)によって、生息地から遠く離れた場所へ移動しなくなったのかもしれない。

プロングホーンを待つ三つの難関

 生物多様性は、単に多種多様な生物がいるだけでは維持できない。生態系や生物の行動、食物連鎖が多様であることも大切なのだ。一部の生物が長距離の移動をしなくなると、ほかの生物に深刻な影響が及び、衰退することになる。バージャーは移動をする世界各地の動物と、北米固有の有蹄(ゆうてい)動物プロングホーンを比較して、この点を明らかにしようとしている。

 プロングホーンは、南北米大陸の陸生動物のなかで最も足の速い動物で、北米にいるどんな捕食動物も追いつくことができない。プロングホーンがこれだけ俊足なのは、更新世に生息していたチーター(今では絶滅した)から逃れるためだったのではないかと考えられている。プロングホーンが移動する距離も長い。群れの一部は、米モンタナ州北部を出発し、大草原地帯を越えて数百キロも離れたカナダのサスカチワン州やアルバータ州まで北上する。ほかの群れは、夏の生息地であるグランドティトン国立公園から、米ワイオミング州パインデール南部の平原まで南下し、グリーンリバー盆地へ移動する。この盆地に到達したプロングホーンは、同州の別の場所からやってきたほかの多くの群れと合流し、天然ガス田や採掘業者たちと距離を置いたまま、数カ月も続く凍えるように寒い冬を過ごす。

 グランドティトンに生息するプロングホーンの移動ルートは決まっていて、その途中にはトラッパーズポイント、ファネル、レッドヒルズと呼ばれる、幅の狭い三つの難関がある。北上を始める春、これらの難関をすべて通過できないと、プロングホーンは夏の餌場であるグランドティトン国立公園に戻れなくなる。また南下を始める秋にも、これらの難関を通過できなければ、ジャクソンホール周辺で越冬しようとして命を落としたり、雪深い分水嶺(ぶんすいれい)で身動きがとれなくなって死ぬ確率が高くなる。

 11月のある晴れた日、私は生物学者レニー・サイドラーとともに、プロングホーンが直面する問題を観察しに行った。

 サイドラーが調査しているパインデールとロックスプリングズの間に広がる一帯では、毎年冬になるとおよそ2万頭ものプロングホーンが越冬するが、ガス田の開発が急速に進んでいる。

 トラッパーズポイントの丘の上から、私たちは国道191号線沿いにある町を眺めた。コーラジャンクションという、小さいが成長著しいコミュニティーだ。人家やトレーラーハウス、その他の建物が50軒ほど立ち並んでいる。この家並みと私たちの立っている丘を隔てる渓谷を、大半のプロングホーンが通過するという。

 私たちは車でグリーン川の上流に沿って北に30キロほど走り、プロングホーンの移動ルートをたどった。プロングホーンは、捕食者を遠くから見つけ、速く走ることで身を守るため、木々に覆われた川沿いの低地を嫌うという。彼らはうっそうと茂る森も嫌がるので、見通しが良く、素早く移動できる、川と森の間の丘陵を通るのだと、サイドラーは説明する。やがて私たちは、幅わずか150メートルほどの原野を抜け、森に覆われた二つの丘陵が川を挟んでゆるやかなV字形を描いている一帯に出た。「ここがファネルです」とサイドラーが言う。グリーン川源流に近いその場所は、いくつもの私道で区切られた私有地で、丸太の柵とアーチつきの門に囲まれた別荘が立ち並んでいた。

 柵が一つ、家が1軒、イヌが1、2頭余計に増えれば、事態は一気に悪化しかねない。トラッパーズポイント同様、ここファネルでも、開発が進めば進むほど、グランドティトンのプロングホーンは移動ルートを狭められ、窮地に追いやられていく。

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