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シリーズ 地球と、
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動物たちの地球大移動

NOVEMBER 2010


 一方、昆虫を専門とする生物学者ディングルは、初めに挙げた五つの特徴のように、移動を定義づける行動はもっと複雑だと考えている。たとえば、アブラムシは移動を始める時期になると、空の青い色を敏感に感知するようになり、目的地に降り立つ時期には、若葉が反射する黄色い光に敏感になる。また、鳥は渡りをする時期が近づくと、大量の餌を摂取して脂肪を蓄える。ディングルの定義は、ヌーやカナダヅル、さらにアブラムシの移動にも当てはまるため、自然選択による進化がもたらした移動行動の仕組みを理解するのに役立つと言う。

勇敢に旅するガラガラヘビ

 カナダ西部の大草原地帯(グレートプレーンズ)でガラガラヘビが繰り広げる大移動は、特異だが、動物の移動を理解するうえで参考になる。現在、世界自然保護基金に勤務するカナダ人の若い生物学者デニス・ヨルゲンセンは、アルバータ州メディシンハット近郊に生息するガラガラヘビの動きを研究し、このヘビが毎年春と秋に移動することをつきとめた。彼が確認したヘビの、平均の移動距離は往復で約8キロだった。しかし、カナダのガラガラヘビに関する研究では、最長で53キロの距離を移動する個体も見つかっている。

 一方、米国南部アリゾナ州に生息するガラガラヘビはこれほどの大移動はしない。その必要がないからだ。カナダのガラガラヘビが長距離を移動するのは、カナダでは冬の気温が寒冷で(爬虫(はちゅう)類は寒さに弱い)、冬眠に適した地中の巣穴が乏しいことと関連している。

 「この土地には、冬眠して冬を越せるような巣穴は多くありません」と、ヨルゲンセンは説明する。理想的な巣穴は、暖かい地中深くにあって、しかも動物の掘った穴や自然にできた裂け目をたどって到達できるものだが、そうした巣穴はごくわずかしかない。「そのため、おびただしい数のヘビが同じ巣穴に集まって冬眠することになります」。たくさんのヘビが狭い巣穴の中でもつれ合って冬眠している様子を思い浮かべてほしい。やがて地表の気温が活動できる温度にまで上昇すると、ガラガラヘビは地上に現れる。ヘビたちはしばらく日光浴をして体を温めるが、空腹だ。餌を探し、繁殖もしなくてはならない。こうしてヘビたちは冬眠していた巣穴から四方八方に散っていき、移動を始める。2004年から05年にかけて、ヨルゲンセンは28匹のガラガラヘビの体に小型の発信器を埋め込み、その移動ルートを追跡した。

 強い日差しが照りつける夏の日、ヨルゲンセンの案内で、サウスサスカチワン川を見下ろす斜面にある巣穴を見に行った。

 斜面のあちこちに深い裂け目が開いている。かつてその中で約60匹のヘビが冬眠していたのだ。私たちは川岸から斜面を登り、ヨルゲンセンが“E”と名づけた、冒険心あふれる雌のガラガラヘビの移動ルートをたどった。

 さほど遠くない斜面に、丸い巨石が三つ並び、その下に穴が開いていた。ヨルゲンセンによると、“E”は5月8日にこの穴に到達したという。“E”はここでしばし日光浴をして体を休め、5月27日に移動を再開。セージと灰色の土に覆われた丘陵の斜面を登りきって反対側の斜面を下りると、未舗装の道路を横切り、木々が密生する湿った峡谷を渡って、再び斜面を登っていったようだ。私たちは丘陵の頂に戻り、鉄条網をくぐって、スプリンクラーで灌漑(かんがい)された円形農場の一角に入り込んだ。

 “E”はわずか1日で二つの円形農場を抜け、雑草が茂る柵の付近に身を潜めた。6月末までに、岩陰や草むら、げっ歯類の巣穴を縫いながら、柵に沿って毎日200メートル進んだ。

 私たちはここで一休みした。ガラガラヘビが8週間かけて移動したルートをたった4時間でたどったのだ。二人とも汗だくになっていた。

 “E”はこの辺りで夏の大半を過ごし、少なくとも1度、雄と交尾し、げっ歯類を餌にして栄養を蓄えると、再び川岸の巣穴へ戻り、子供を身ごもった状態で冬を越した。この辺りはヘビにとって繁殖に最適の場所だが、危険も潜んでいると、ヨルゲンセンは言う。ヘビたちは移動中に、農耕用の機器で体をずたずたにされたり、農道を走る車にひかれる恐れがあるからだ。こうした人間活動がガラガラヘビの移動を阻む障害となっている。その時、一人の男が四輪駆動車に乗ってやってきた。

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