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チンパンジーを見つめた50年

OCTOBER 2010


 だが、ゴンベでの研究の真に偉大な点は、ジェーン・グドールが人類の概念を「定義し直した」ことよりも、野生のチンパンジー1頭ごとの特徴と、集団としての行動様式の両方を詳しく調べ、その行動研究のための画期的かつ高度な基準を設けたことにある。ジェーンは研究用のプログラムを考案し、一連の研究手順をまとめ、人々の興味をゴンベに向けさせた。つまり彼女は、科学界とチンパンジーの群れを結びつけたのだ。しかもこの結びつきは、いまや一人の女性の力では到底なしえないほど、広範な規模にまで発展した。現在、ゴンベでの研究プロジェクトは分野が多様化し、人工衛星による地図の作製や、内分泌学、分子遺伝学などの新手法を取り入れながら、単に動物行動学の範囲にとどまらない、さまざまな研究に応用されている。

 だが皮肉なことに、ゴンベでの研究によって、チンパンジーたちの存続を脅かす問題も明らかになった。

 とりわけ二つの問題が懸念されている―生息地を取り巻く地理的条件と病気だ。現在、ゴンベに暮らすチンパンジーの生息地は周囲の森から孤立していて、末永く子孫を残し繁栄していくには小さすぎる。また、チンパンジーだけが感染するエイズによって一部のチンパンジーが死んでいるらしいのだ。

世界的な霊長類学者の道へ

 ジェーンは、研究を始めてすぐの頃、チンパンジーをどのように研究し、その行動の観察からどんな情報を引き出せば良いのか悩んでいた。そんなジェーンに、またもルイス・リーキーがその後の人生を決定づける名案を授けた。ジェーンを英国ケンブリッジ大学の動物行動学の博士課程に推挙しようというのだ。

 この博士号取得は二つの理由で無理があるように思えた。第一に、彼女は学士号を持っていなかったこと。第二に、彼女がずっと目指していたのは、博物学者もしくはジャーナリストになることであって、科学者になるなど夢にも思わなかったことだ。「動物行動学がどんな学問なのかも知りませんでした。しばらくたってようやく、それが単に動物の行動を研究することだと知ったのです」。ジェーンはつい先頃、そう語ってくれた。

 ケンブリッジ大学に入学するなり、ジェーンは、柔軟な発想ができないお偉方の教授や、学界の“通説”と衝突した。「自分のやってきたことすべてが間違いだと言われ、少しショックを受けました」。それまでに彼女は、ゴンベでのフィールド研究で15カ月分のデータを収集していたが、その大半は、灰色ひげのデビッドやマイク、オリー、フィフィなどのあだ名をつけたチンパンジーを粘り強く観察した成果だった。だが、こうしたあだ名をつける方法に、大学の教授たちは眉(まゆ)をひそめた。人間ではない動物に、個性や性格を表す名前をつけるのは擬人化であって、動物行動学ではないと言うのだ。「幸い私は、幼い頃に動物にも個性や性格があることを教えてくれた、最初の“先生”を思い出したのです」。その先生とは、彼女が飼っていた愛犬ラスティだ。「(従来の考え方では)発達した脳を持つどんな動物とも意思を通わせられないし、動物にも個性があることを理解できないでしょう」。ジェーンは学界の通説に異議を唱え(彼女は穏やかだが、そう簡単には持論を曲げない)、1966年2月9日、博士になった。

 1968年、ゴンベのささやかな保護区も一段格が上がり、ゴンベ国立公園となった。この頃、ジェーンはナショナル ジオグラフィック協会から研究支援を受けるようになった。彼女は結婚して1児の母となり、やがて『ナショナル ジオグラフィック』誌に何度も記事を掲載したり、強い意志を秘めた美貌(びぼう)でテレビのドキュメンタリー番組に出演するなどして、世界的な著名人になった。

 ジェーンはまた、フィールド研究用のキャンプを正式な非営利組織「ゴンベ・ストリーム研究センター」として設立し、運営資金を募った。1971年には、ゴンベにおける初期の研究と調査を報告した『森の隣人―チンパンジーと私』を出版し、ベストセラーとなる。同じ頃、ジェーンは生物学専攻の学生や大学院生をゴンベに招いて、チンパンジーの生態のデータ収集や、その他の研究を手助けするようになった。彼女の影響力のほどは、ゴンベを訪れて重要な研究を成し遂げた科学者たちのそうそうたる顔ぶれを見るだけでも理解できる。その中の一人であるアン・ピューシーは現在、米デューク大学の進化人類学部の教授兼学部長で、ジェーン・グドール研究所(1977年に米国で設立)にある霊長類研究センターの所長も務めている。

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