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精妙なる昆虫の卵

OCTOBER 2010


 形態こそ奇抜で複雑だが、昆虫の卵の基本的な仕組みは、ほかの生物と類似している。卵はまだ雌の体内にある時に卵膜を形成し始める。卵の先端部には、卵門と呼ばれる開口部があり、精子はここを通って卵の中に入っていく。交尾をして雌の体内に入った精子は卵に入る機会を待っているが、時には、数年かかることもある。長い忍耐の末に精子が卵の内部へ進入を果たすと、卵は受精し、卵膜の内部では昆虫の胚(はい)が発生して成長を始める。この時点で、目や触角、口などの器官が形成されていき、卵の内部に宿った生命は、卵膜に開いた気孔を通じて呼吸をする。

 砂糖の粒ほどしかない卵の内部で、こうした生命の営みが繰り広げられることは驚きに値するが、その半面、実に自然な現象ともいえる。つまるところ、地球上のほとんどの生物はこのように生命を受け継いできたのだ。

 昆虫の多様さを考えれば、あまりに少ないかもしれないが、この特集記事では数種の卵をご覧いただくことにした。ある種のチョウは、捕食者ばかりか、植物からも産卵の邪魔をされるという試練に直面する。トケイソウの中には、葉の一部をチョウの卵そっくりの形状に変える種がある。産卵しようと、そのトケイソウまで飛んできた雌のチョウは、変形した葉を見て、既に別のチョウが卵を産みつけたと勘違いして、飛び去っていく。こうした見せかけの卵は、人間の目からすると、完璧とはいえない出来ではあるが、チョウの目からは、実物の卵と見えてしまうのだ。

 昆虫の卵を待ち受ける試練はそればかりではない。捕食寄生者と呼ばれる昆虫が卵の内部に自らの卵を産みつけようとするからだ。捕食寄生するハチやハエは、長い産卵管を使って、ほかの昆虫の卵や体の内部に自らの卵を産み、最終的には宿主を殺してしまう。すべての昆虫の約10%が捕食寄生者で、捕食寄生は昆虫が生き残るための巧みな戦略といえる。捕食寄生する昆虫が唯一警戒すべきなのは、重複寄生者の存在だ。重複寄生とは、既に宿主の体内や卵に侵入している寄生者の体内に卵を産みつけることだ。チョウの卵や幼虫からは、この壮絶な生命のドラマの末に、寄生していたハチが成虫となって現れることがよくある。ここに掲載された死んだ卵や孵化していない卵の中にも、もしかしたら、寄生者を宿しているものがあるかもしれない。

 数億年もの長い間、昆虫はずっと卵を突き破って、はい出してきた。この生命の営みは現在も至るところで続いている。耳を澄ましてみれば、聞き取ることができるかもしれない。昆虫たちが6本の脚を懸命に動かして、卵の殻から外界に現れようとする音が……。

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