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巨獣はなぜ消えた?

OCTOBER 2010


 化石が最初に見つかったのは1830年。ジョージ・ランキンという地元の役人が、この縦穴に下りるとき、ロープをひっかけるのにちょうどいいでっぱりが壁面にあるのを見つけた。実はそれが骨だった。

 その年のうちに、トマス・ミッチェルという名の調査員が一帯の洞窟を調べて回り、化石をいくつも発見した。見つかった化石は、英国の古生物学者リチャード・オーウェンのもとに送られる。のちに恐竜の存在を明らかにして有名になるオーウェンは、ウェリントンの化石を調べ、絶滅した有袋類の骨であると断定した。

 大型動物の絶滅について、オーギーはどう考えているのか尋ねてみた。

 「フラナリーと全く同じ考えです」

 それを聞いてフィールドが眉(まゆ)をぐいと上げる。

 オーギーは続けた。「場所が洞窟ですからね。洞窟での発見物は、放射性炭素による年代測定もあまり当てになりません」

 確かにそうだ。洞窟には雨水とともにいろいろなものが流れこむし、堆積物の状態も変わる。年代が新しくても、重いものであれば古い地層の中に入りこむこともある。自然のやることは、私たちが考える以上に複雑なのだ。

 ジュディス・フィールドは、科学的なデータがまだまだ不足していて、過去の謎を解き明かすには十分ではないと話す。

 「オーストラリアでは、更新世後期の地層がおよそ200カ所で見つかっています。でも年代が確定しているのは、そのうち20カ所あるかどうか。今の学説はどれも緻密(ちみつ)に組み立てられていますが、根拠となるデータはきわめて貧弱なのです」

骨の刻み目は……

 しかし幸いなことに、オーストラリア各地では化石ハンターたちが今日も発掘に励んでいる。特に大型動物の化石発見には、アマチュア古生物学者が大きく貢献している。リンジー・ハッチャーもその一人だ。

 西部の都市パースから南に車で4時間。マーガレット川沿いの町で会ったハッチャーは気さくな男性だが、地元で近年最大の化石発見をやってのけた偉大な人物だ。

 1992年、この地にあるタイト・エントランス洞窟の探査を敢行したハッチャーは、アマチュアの洞窟探検家がよく使うルートを歩いていたとき、周囲が化石だらけなのに気づいた。思わず、「みんな絶滅したカンガルーの上を歩いているぜ」と同行した仲間たちに告げたという。地面に穴が開いていると思ったら、それは巨大カンガルーの頭骨の眼窩(がんか)だったのだ。それ以来、この洞窟からは1万点以上の絶滅した大型動物の骨が見つかっている。

 マーガレット川の近くには、マンモス洞窟という発掘地点もあり、現在観光地となっている。発掘は1909年から15年にかけて行われたが、その方法は地層ごと掘りだして化石を取りだすという、今では考えられないような粗雑なものだった(「貴重な化石はみんな持っていかれてしまったよ」とハッチャーは言っていた)。

 そのなかで注目を集めた骨が一つあった。刻み目の入った大腿骨だ。マンモス洞窟にはその骨の複製が今も展示されている。この刻み目は鋭い人工物でつけられたものだろう、とハッチャーは推測する。マンモス洞窟を初めて見たとき、氷河期にここに人が住んでいたはずだと直感的に確信したという。

 「当時は人が住むにはうってつけでした。風雨がしのげる。かれない水源がすぐそばにある。周囲の低木林で食べ物も調達できると、いいことずくめですよ」。照明を完備した洞窟内をめぐりながら、ハッチャーはそう語った。

 だが、大腿骨の刻み目は肉食動物のティラコレオが鋭い牙でつけたものだという見方もある。どちらの可能性に関しても、解釈の域を出ない。だがハッチャーはこれからも調査を続けて、オーストラリア最大の謎の解決に向けて貢献していくことだろう。

データは何も語らない

 地球に残された歴史の証拠は、あまりにも雑然としている。骨はばらばらになり、石器などの人工物は原形をとどめていない。大地は浸食され、気候は変化し、森は出現しては消え、川の流れも変わる。完全に消えるとまではいかなくても、過去はどんどんおぼろげになっていく。太古の歴史をひも解く研究は、ごく限られたデータだけでやらざるを得ない。

 オーストラリア大陸各地には、最初に住みついた人類が描いた岩石壁画が残っている。そんな遺跡の一つを見ようと、中部のアリス・スプリングスを訪ね、この町を拠点に活動している古生物学者ピーター・マリーに会った。町の南にある遺跡には、赤い砂岩の表面に、ヘビのように曲がりくねった図形や円が描かれている。「とても興味深く、謎に満ちていますが、大型動物じゃありませんね」とマリーは言った。

 オーストラリア最北部のアーネムランドにある岩石壁画には、パロルケステスという絶滅した大型有袋類によく似た動物が描かれている。胴体が小さくて動きがすばやく、バクのような鼻とキリンのような長い舌をもっている動物だ。

 ウェスタンオーストラリア州にある岩石壁画には、ティラコレオかフクロオオカミらしき動物が狩人とともに描かれている。もっとも両者の運命は大きく違い、ティラコレオは絶滅したが、小型のフクロオオカミはその後も長く生きた。

 マリーは自分の仕事についてこう語る。「研究を1歩進めるたびに解釈が必要になります。データ自体は何も語ってくれませんからね」

 過剰殺戮説は、人類が膨大な数の動物を短期間で絶滅させたという物騒なものだ。しかしもっと不吉なシナリオもある。大量殺戮という短期的なものではなく、気候変動をはじめとするさまざまな現象や出来事の積み重ねが絶滅を招いたというものだ。それは長い時間をかけて起こることなので、かかわっていたはずの人類も認識できなかっただろう。

 それは今日にも言えることではないか。

 「私たちのこれまでの生活、そして今の生活が未来を破壊している」とフラナリーは主張する。だが私たちが世界をどう変えているのか、今の繁栄が多くの生き物をどこまで傷つけ、絶滅に追いやっているのかといったことは、まだほんの少ししかわかっていない。

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