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巨獣はなぜ消えた?

OCTOBER 2010


 1994年、フラナリーは過剰殺戮説のオーストラリア版とも言えるこの壮大な仮説を、著書『The Future Eaters(未来を食べる者)』で発表した。さらに、人類は生態系を荒らし、みずからの未来を破壊する前代未聞の動物だという大胆な主張も繰り広げた。

 この本は大きな議論を巻き起こした。自然と調和しながら生きる誇り高いアボリジニへの批判と受け止める声もあった。フラナリーの説には根本的な問題もある。大型動物を人類が殺したことを示すはっきりした証拠は、まだ一つも見つかっていないのだ。矢じりがあばらに刺さったディプロトドンの骨格化石があったとか、たき火の跡でティラコレオの骨が出土したとなれば話は別だ。実際、北米と南米では似たような証拠が発見されている。しかしオーストラリアには皆無だ。

 フラナリーの仮説にはほかの疑問もある。武器といってもせいぜい槍と火しか持たない人類が、数多くの種を絶滅させるのは不可能ではないか? 大型動物は大陸全土に分布していて、生息地の環境は多様で、人がとうてい入りこめないような奥地もあった。そんな状況で、千人単位の人口しかいなかった人類が、動物たちの命を次々に奪った。それも絶滅というからには、1頭も生き残っていない状態にまで追い詰めなければならない。

ポイントは人類と共存した期間

 大型動物をめぐる論争では、出土した骨と地層の年代測定技術が要となる。絶滅が人類の到達から数百年、あるいは数千年のあいだに急速に起こったことを示せれば、たとえ状況証拠であっても、絶滅の直接の原因が人類だという強い根拠となる。

 フラナリーは、この謎を解くヒントが島にあると主張する。たとえば、オーストラリア南東部のタスマニア島には、一部の大型動物が4万年前まで生存していた。しかし海面が下がって人類の上陸が可能になったために、結局は大陸と同じ運命をたどったという。シベリアのマンモスや、北米と南米の大型のナマケモノも島に逃げこみ、本土の仲間が絶えたあとも数千年生き延びた。

 ただこうした主張ができるのは、人類と大型動物が短期間しか共存しなかったという前提に立っているからだ。もし両者の生きた時代が数千年から数万年重なっていたという証拠が見つかれば、絶滅に人類が関与したという説は怪しくなる。

 実はオーストラリア内陸部に、何らかの証拠が見つかりそうな場所がある。もっともその証拠が、どの仮説を裏づけることになるのかはまだわからない。

 その場所とは、ニューサウスウェールズ州北部のカディ・スプリングスだ。ここでは、1878年に井戸を掘っていた農夫が大型動物の骨を見つけている。

 現在、この場所に関して最も多くを語れるのは、シドニー大学の考古学者ジュディス・フィールドだ。彼女は研究者になってからずっと、この地で発掘と化石の分析を続けている。

 1991年、大学院生だったフィールドは、大型動物の骨のすぐそばに石器が埋まっているのを見つけて、新聞や雑誌に大きく取りあげられた。フィールドによれば、3万5000年前と3万年前の二つの地層で人類との関連を物語る証拠が見つかっているという。この年代が正確であるなら、人類と大型動物は2万年ほどオーストラリアで共存していたことになる。

 「カディ・スプリングスでの発見から、人類と大型動物の時代が長いあいだ重なっていたことがわかります」とフィールドは説明する。

 だが、反対派はそんな主張を一笑に付す。動物の骨はもともと古く、年代の新しい地層に何らかの自然の作用で移動しただけだというのだ。2001年にフラナリーと共著で論文を執筆したバート・ロバーツは、そんな反対派の一人だ。大型動物の絶滅に人類がかかわっているとの見解をもっているが、彼がカディ・スプリングスの砂の粒子を分析したところ、化石の推定年代よりもかなり新しい砂粒が化石層に混じっていることがわかった。

 カディ・スプリングスは時期によって湖が出現する場所で、私が取材で訪れたときには、完全に水没していて近づけなかった(もっとも現地に行ったところで、地層の年代の論争に口をはさめる立場ではないが)。

 仕方なく、フィールドといっしょにウェリントン洞窟という、もう一つの有名な発掘地点に向かうことにした。

 シドニーを出発してブルー山脈を越え、牧歌的な風景を眺めながら車で走ること5時間。ようやく到着したウェリントン洞窟の駐車場で出迎えてくれたのは、グラスファイバー製のディプロトドンの模型だった。

 ディプロトドンは大型動物のなかでも特に大きく、地球上に存在した最大の有袋類である。ずんぐりした体格、短くて太い脚が特徴で、きっとどこの博物館に展示されても、説明板に「のしのし歩いていた」と書かれるに違いない。

 ウェリントン洞窟では、ディプロトドンの最初の出土地点を現地の科学者マイク・オーギーが案内してくれた。洞窟は石灰岩の丘に開いた大きな縦穴で、入り口に鉄格子がはまっている。

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