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「魚を食べる」を考える

OCTOBER 2010


 海への影響を評価するには、どんな魚を捕っているかだけではなく、国民が何を食べているかにも目を向けなければならない。「一次生産者量は漁業で獲得できるだけでなく、貿易でも獲得できます。注目すべきは、豊かな国がもつ獲得能力です」と、ポーリーは語る。

 お金のある国は、魚を大量に買う。しかもその多くはマグロのような大型の捕食者だ。

 日本の漁獲量は年間500万トン以下で、1996年から2006年までに4分の3ほどに減った。しかし日本の魚介類の消費量は年間900万トンに上っていて、これは一次生産者に換算するとおよそ5億8200万トンに当たる。

 中国の消費者は日本の消費者に比べ、概して小型の魚を食べるが、人口が多いのでシーフード・プリントは世界最大だ。一次生産者に換算すると6億9400万トンに達している。日中両国に続くのが、人口が多く、かつ大型捕食魚を食べる米国。一次生産者にして3億4850万トン分を消費する。この3カ国のシーフード・プリントはいずれも増加傾向にある。ポーリーによると、この数字が示しているのは単に消費量の膨大さだけではない。このままでは続かないこと、つまり持続不可能であることだ。

 それを明確に示しているのが、「シーフード・プリント」プロジェクトに参加する経済学者ウィルフ・スワーツがまとめた、世界の水産物貿易についての分析である。90ページの地図に示すように、人類の漁獲量(一次生産者に換算)は1950年代から2000年代前半にかけて激変した。50年代には十分足りていた漁業海域が、豊かな国々で大型捕食魚に対する需要が高まると、自国の沿岸200カイリの排他的経済水域ではまかなえなくなる。その結果、漁場を次々と広げざるを得なくなった。

 排他的経済水域の外側は、海事用語で公海と呼ばれ、法的には誰の所有物でもないが、同時に人類全員の所有物でもある。この公海での漁獲量は1950年の160万トンから、現在のおよそ1300万トンへと、約8倍に増えた。捕られた魚の大半はマグロ。食物連鎖の上位にあり、高価で、シーフード・プリントもかなり大きい捕食魚だ。

 こうした公海の高級魚を買い占めているのは、裕福な国である。そして貧しい国と協定を結んで、沿岸の魚を捕ったり買ったりしていくのも裕福な国だ。地元の魚を最も必要としているはずの貧しい国の人々には回ってこない。

魚に満ちた市場は“幻想”

 米国や日本のような先進国のスーパーマーケットは、今も新鮮な魚で満ちている。だが、それは二つのひずみの上に成り立った幻想のようなものだ。ひずみとは、一つは公海が「未利用の共有地」から「開発の進んだ独占的な漁場」へと姿を変えつつあること。もう一つは貧しい国々の水産資源が、裕福な国々にそっくり持ち去られていることだ。

 魚介類需要の高まりは、漁船団を世界中のあらゆる海域へと駆り立てた。もはや新たな漁場は残されていないのに、それでも十分と言えない状況だ。漁獲量は増大していて、資源の回復ペースが追いつかなくなるのではないかと、新旧どこの漁場でも危惧されている。国連食糧農業機関(FAO)と世界銀行は、最近発表した報告書の中で、現在のような大量の漁獲を維持するほどの魚は、もはや海には残されていないと結論づけた。それどころか漁船や漁具の数を半分にしても、なお魚を捕りすぎる計算なのだという。

 ただし、同じデータを目にしても、ダニエル・ポーリーとは異なる全体像を描く科学者もいる。ワシントン大学の水産学者レイ・ヒルボーンは、状況がそれほど深刻だとは思っていない。「ポーリーは世界の漁業資源の60~70%が過剰に捕られ、あるいは枯渇しかけているというグラフを見せたがる。だがFAOの分析や、私が独自に行った調査に従うなら、その数字はせいぜい30%ほどだ」

 一方では、水産資源の減少を補おうと、サケやマグロのような大型捕食魚を養殖する試みが進んでいる。それは「魚のあふれる市場」という幻想を維持するには有効だろう。しかしこの試みには大きな落とし穴がある。ほとんどすべての養殖魚は、より小さな魚から取った魚粉や油を餌にしているからだ。

 シーフード・プリントは、ここでも有用性を証明できるかもしれない。餌となる野生の魚の生態学的価値を算出できるなら、研究者たちは養殖が及ぼす真の影響を示せるだろう。そうしたデータを手にすれば、政策立案者も誰が何を海から得ているのか、それは公正で持続可能なのかを、立証しやすくなるかもしれない。今回の調査でも明らかだが、豊かな国々は自らが海に及ぼす影響力を過小評価してきた。まずはその自己評価を改める必要がある。

 この先、シーフード・プリントはさらなる潜在力を発揮できるだろうか。各国政府に一次生産者の取得上限を定めた保護協定を結ばせ、それを超えたら罰金を科したり、取得量を制限したりする体制を作れるだろうか。

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