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アメリカシロヅル

SEPTEMBER 2010


 かつて、アメリカシロヅルを助けるために、科学者たちがまず解かねばならない謎があった―それは、夏の間、このツルたちはどこに巣を作り、卵を産むのか、という点だ。

 生物学者たちの調査によって、1890年代後半にはツルの越冬地は解明されていた。それは、メキシコ湾に面したテキサス州の湿地帯で、のちにアランサス国立野生生物保護区となる場所だ。懸案だった繁殖地の謎を解くため、市民に目撃情報の提供が呼び掛けられた。たくさんのボランティアの力を借りて、渡りルートは隈なく調べられることになる。

 カナダ北部の寒帯平原の上空を飛んでいた消防ヘリコプターから、アメリカシロヅルの家族を見つけたとの報告が入ったのは、1954年の夏のことだ。そこは、テキサスから北に4000キロほど離れた地点で、人が近づくことは難しい湿地帯だった。幸運なことに、ツルの群れは北米最大のウッド・バッファロー国立公園のなかで夏を過ごしていたのだ。

 絶滅の危機にあったカナダのモリバイソンを守るために、1922年に設置された広さ4万4800平方キロの原生地がツルを救うこととなった。ここは、人間社会から隔絶され、天敵といえば、オオカミやクマ、キツネ、卵を狙うワタリガラスといった自然の動物だけだ。アメリカシロヅルは5平方キロほどの縄張りを守り、水深が膝まであるような湿地に巣を作る。生まれてくるヒナは1羽か2羽で、昆虫の幼虫や植物の種、巻き貝や魚などを与えて育てる。「ウッド・バッファロー国立公園はこれからもずっと原生のままでしょう」と、米国魚類野生生物局のスターンは話す。「だから、ここにいればツルたちも安全です」

 話を戻そう。先ほど、上空から個体数調査をしていたカナダ野生動物局のクレイグ・ムーアが別のツルを見つけた。真っ赤な小型機は西に向かって急降下していく。

 これまで数カ月にわたって上空から何度も調査してきた。飛行時間は59時間に及ぶ。その結果、259平方キロの範囲に62個の巣と52羽のヒナ、それに、巣だったばかりの若鳥が22羽いることが確認された。

 保護活動家たちが本当に安心できるのは、個体数が、少なくとも現在の5倍まで増えた時だが、状況は決して甘くない。渡りルートに点在する湿地帯は開発によって姿を消しているし、いい風が吹く渡りルート上は風力発電プラントの建設候補地として注目を集めている。送電線が増設されれば、ツルはまた命の危険にさらされる。

 それでも、長年にわたって保護に取り組み、成果を上げてきた活動家たちは楽観的に構えている。カナダ野生動物局の生物学者ブライアン・ジョンズは次のように話す。「しっかり生息域を保護していけば、20年以内に、こうした活動は必要なくなるかもしれません。おそらく、私たちの出る幕はありませんよ」

 10月になると、ウッド・バッファロー国立公園のアメリカシロヅルはテキサスへと飛び立っていく。あるオスの成鳥が歩きながら、頭を横に傾けた。黄色い瞳が空を見上げ、自分と家族を上空へと連れて行ってくれる上昇気流が発生する兆候をうかがっているのだ。そのサインをキャッチしたら、すかさず身体を前方に傾け、飛び立つ意志を家族に伝える。すると、つがいのメスと子供の若鳥も同じ姿勢を取った。そして、ほぼ同時に大空へと飛び立った。

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