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ウナギの不思議

SEPTEMBER 2010


 ウナギは水中から陸に上がり、川岸にある食べ物を取ることもある珍しい魚だ。サバの缶詰やドッグフードまで食べる。ニュージーランドの先住民マオリ族の養殖場で、私はこの光景を目撃した。ウナギの食生活は実にバラエティー豊かで、水生昆虫から魚、貝、仲間のウナギまで何でもこいだ。

 特筆すべきなのは適応力の高さだけではない。川から遠い外洋まで数千キロにも及ぶウナギの大回遊は、地球上のあらゆる生物の旅の中でも最も壮大なものの一つだろう。旅の途中、ウナギたちは多くの危険に直面する。水力発電用のダム、分水路、水質汚染、病気、捕食者……。人間による漁獲量も増えている。現在では、地球温暖化による海流の変化がウナギの回遊に影響を与える可能性も指摘されている。ウナギの保護に熱心な人もいるにはいるが、環境保護活動のシンボルとなるにはこの魚はいささか地味だ。残念ながらすぐには注目されそうにない。

 古代ギリシャのアリストテレスからローマ時代の大プリニウス、17世紀英国の随筆家アイザック・ウォールトン、18世紀のスウェーデン人植物学者カール・リンネまで、往時の博物学者たちは、ウナギの出自について様々な説を提示した。泥の中から誕生する、岩に体をこすりつけて増殖する、5月と6月に降りる特別な露から生まれる、卵ではなく親から直接生まれる……。

 だが問題は、誰もウナギの体内の精子や卵を特定できなかったことだ。それどころか生殖器官さえ見つかっていなかったため、ウナギに性別があるかどうかもはっきりしなかった。しかしこの謎は後に判明した。ウナギの成魚は河口から外洋の産卵場へ移動し、人間の目につかない場所に行ってから、卵や精子が成熟し、生殖巣が発達するのだ。

 19世紀後半、イタリアのトリエステで、当時まだ医学生だったジークムント・フロイトが雄ウナギの精巣を探す仕事を任された。彼は、ウナギの体腔(たいこう)の内側にある白い物質の輪が精巣だという説を唱えた(有名な精神分析学者フロイトの最初の論文がこれだ)。そして1897年、性的に成熟した雄ウナギがメッシーナ海峡で採集され、この説の正しさが裏づけられた。

 さらに1904年、ヨハネス・シュミットというデンマーク人の海洋生物学者が自国の調査船に乗って出航した。ある春の日、フェロー諸島の西でヨーロッパウナギ(学名 Anguilla anguilla)の仔魚が調査隊の底引き網にかかった。この発見により、デンマークの小川に生息するウナギが遠く離れた大西洋の真ん中で産卵している可能性が浮上した。

 シュミットは、ヨーロッパの沿岸から遠ざかれば遠ざかるほどウナギの体が小さくなることを示すデータを集め、ウナギの産卵場は北大西洋の南西部、サルガッソー海にあると断言した。「生活史を全うするために地球の円周の4分の1にも及ぶ距離を旅する魚はほかに知られていない」と、彼は1923年に書き残している。

 シュミットが1933年に死去した後、一部の研究者は産卵場に関する彼の説に疑問を唱えた。研究者たちはシュミットが特定のデータを隠していたことを示したうえで、シュミットは実際に卵が孵化する現場を目撃しておらず、ほかの海域でウナギをほとんど探していないのに、ここが唯一の産卵場だとなぜ言えるのかと問いかけた。しかしシュミットの説は、今も根本的な部分では正しいと考えられている。

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