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特集

ツタンカーメンの両親は誰?

SEPTEMBER 2010


 ツタンカーメンの父親だと多くの学者が考えているのは、アクエンアテンだ。アマルナの近くで見つかった石灰岩の破片に、ツタンカーテン(後のツタンカーメン)とアンケセンパーテンを「王の最愛の子供たち」と呼んだ碑文が刻まれているからだ。アンケセンパーテンがアクエンアテンの娘であることはわかっているので、ツタンカーテンはアクエンアテンの息子と考えるのが自然だろう。しかし、この証拠だけでは不十分だとみる学者もいる。父親は謎の人物スメンクカーラーだとの主張もあった。

父親は判明、母親は……

 ミイラからDNAを分離できれば、あとはアメンへテプ3世、KV55号墓のミイラ、ツタンカーメンのY染色体の遺伝子を比べ、血縁関係の有無を確かめるのはさほど難しくはない(Y染色体は父親から息子に直接受け継がれるので、血縁関係のある男性同士ではY染色体上のDNAパターンが一致する)。

 しかし、関係を正確に知るには、より高度な「DNA指紋法」による解析が必要になる。染色体上にはA、T、G、Cの4種類の塩基が並び、遺伝情報を伝える暗号のような役割をしている。人間のDNAには、数個の塩基から成る配列パターンが何度も繰り返されている領域があり、その反復の回数は人によって異なる。10回繰り返されている人もいれば、15回あるいは20回という人もいる。FBI(米連邦捜査局)のDNA鑑定の基準では、こうした領域を10カ所調べて、すべての反復回数が一致すれば、犯人特定の重要な決め手とされる。

 3300年前のミイラから採取したDNAで家族関係を調べる際には、犯罪捜査ほど厳しい基準を設けなくてもいい。今回の調査では8カ所の反復回数を比べ、99.99%の確率で、KV55号墓のミイラがアメンへテプ3世の息子であり、ツタンカーメンの父親だという結果を得た。

 これで父親の遺体を特定できたわけだが、この遺体が誰なのかは依然として謎だった。おそらくアクエンアテンかスメンクカーラーだろうと、私たちは目星をつけていた。KV55号墓のミイラを収めた棺(ひつぎ)には、アクエンアテンだけに関連のある言葉が刻まれている。

 とはいえ、アクエンアテンでないことを示唆する証拠もあった。それまでの調査では、KV55号墓のミイラは25歳より前に死んだと推定されていたのだ。アクエンアテンは王位に就く前にすでに二人の娘をもうけ、17年間統治を行っている。その遺体にしては若すぎるため、“影”のファラオ、スメンクカーラーの遺体ではないかと、大半の学者が考えた。

 この謎を解くため、新たな“証人”として、「年配の女性」と呼ばれるミイラ(KV35EL)に目を向けた。赤みを帯びた長い髪を肩まで垂らし、死してなお美しい。このミイラの頭髪と、ツタンカーメンの墓で見つかった入れ子式の小さな棺に入っていた髪の毛の束が、その形態から同一人物のものであることがわかっていた。この小さな棺には、アクエンアテンの母であるティイ王妃の名が刻まれている。ティイの両親であるイウヤとトゥヤのミイラとDNAを比べた結果、「年配の女性」がティイであると確認できた。あとは、KV55号墓の男性が、彼女の息子かどうかを調べればいい。

 KV55号墓の男性と「年配の女性」のDNAを比べたところ、血縁関係があることが確認できた。KV55号墓のミイラを改めてCTスキャンで調べると、背骨に老化による衰えが見られ、膝と脚の骨関節炎を患っていたことがわかった。これで死亡時の年齢は25歳ではなく、40歳前後だったという線が濃厚になり、年齢の問題は解決した。アメンへテプ3世とティイの息子で、ツタンカーメンの父親であるKV55号墓のミイラは、ほぼ確実にアクエンアテンだと結論づけられる(ただし、スメンクカーラーである可能性が完全になくなったわけではない)。

 これまで、この一族はマルファン症候群(骨が長くなるなどの症状が出る遺伝性疾患)のような先天性の病気を抱えており、アクエンアテンが顔の長い女性的な姿に描かれているのも病気のせいだと言われてきた。だが、今回のCTスキャンではそうした病気の痕跡は全く認められなかった。アクエンアテンの像が両性具有のような印象を与えるのは、男性でも女性でもあり、全生命の源とされるアテン神とファラオを同一視した当時の美術様式によるものだろう。

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