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野生の王国
カジランガ

August 2010


 さほど広くない土地に、なぜこれほど多くの大型動物同士が共存できるのか。答えは川にある。チベット高地を源流とするブラフマプトラ川は、ヒマラヤ山脈を経由した後、800キロにわたってインドとバングラデシュを通り抜ける。夏にモンスーンが豪雨をもたらすと、川は氾濫し、水が引くと氾濫原は栄養たっぷりの沈泥に覆われる。その泥からスゲや背の高いイネ科植物などの草が大量に伸びて生い茂るのだ。ブラフマプトラ川流域は高さ6メートルにもなる草原に姿を変え、動物たちの食物となる。

 亜熱帯地方において、保護を必要とする野生生物の生息地といえば、森林を思い浮かべるかもしれない。しかし、川の氾濫によって土砂が堆積(たいせき)してできた沖積(ちゅうせき)平野と、そこに広がる草原は、生息地としてはるかに希少であるだけでなく、より多くの在来種や大型動物をはぐくんでいるのだ。

 小高い土地にはインドセンダンをはじめとする樹木が生え、つる植物が巻きついた木々の間をアカゲザルの群れが移動し、インコやオオサイチョウが鮮やかに枝を彩る。

 カジランガ国立公園には、氾濫した川の水がたまってできた浅い湖が点在している。湖には洪水のたびに新鮮な水が流れ込み、魚たちがやってくる。湿地帯には、インドガンやアカツクシガモ、ハイイロペリカンやセイタカコウ(コウノトリ科)といった水鳥が、越冬のため大挙して飛来する。獲物を狙うユーラシアカワウソが、イルカのように弧を描いて水面から飛び出すこともある。ブラフマプトラ川での取材中、体長2メートルのガンジスカワイルカがジャンプする姿も目にした。

サイの猛攻撃

 ある暑い昼下がり、ガイドのブデスワー・コンワーは屋根のないジープを止めて、テントセダカガメを道路からどかしていた。私たちも皆、車から降りて、それぞれ体を伸ばしたりカメを観察したりしていた。ふと反対側を振り向いた瞬間、恐ろしい光景が目に飛び込んできた。「サイだ!」。猛烈な勢いで突進してくる。

 サイは時速40キロ以上のスピードで走ることができる。危険を回避するため、カジランガ国立公園を訪れる観光客(年間約7万人のインド人と、4000人の外国人)は必ず、武装した監視員と行動を共にしなければならない。

 車に飛び乗って逃げる時間はなかった。監視員のアジト・ハザリカが威嚇射撃を行った。弾丸はサイの前脚からわずか数センチの地面に当たって勢いよく土を飛び散らせた。鋭い発砲音も手伝ってか、サイはすんでのところで向きを変え、走り去っていった。

 その10分後、盛り土をして周囲より一段高くなった未舗装道路を走って森の中を進んでいると、泥浴びを終えたばかりのサイが道路に上ってきた。その後ろには、やはり泥だらけで、体の大きさが3分の2くらいの若いサイがいる。さらにその後ろからもう1頭、若いサイがついてくる。やがて3頭は道路から下りて姿を消した。

 私たちは少し間を置いてから再び出発した。すると今度は、泥まみれの母親サイが木々を縫って突進してくるではないか。助手席のハザリカが威嚇射撃をする間もなく、サイはジープの横腹に激突した。重量ではサイのほうがジープをはるかにしのいでいる。助手席のドアが陥没した。どうやらサイは、ジープを道路脇まで押していって、道路から突き落とそうとしているようだ。すでに、2個の車輪は宙に浮いている。

 アフリカのサイと違い、インドのサイは角で敵を突くのではなく、下あごに生えた大きく鋭い切歯でかみつく。母親サイの歯がジープの車体に深々とめり込んでいく。なんてことだ。

 何が起きても怖気づくな――ガイドであるコンワーが定めたカジランガの掟(おきて)だ。しかし、コンワーが必死でアクセルを踏み続けていた時、私はその掟を破り、ひたすら震えていた。宙に浮いていた車輪がようやく地面に着くと、私たちは一目散にその場から走り去った。

 私たちは死後間もないサイの死体を見に行った。死んだのは成獣で、死体の周りには2頭のトラの足跡が残っていた。カジランガではサイの子どもの15%がトラに襲われて死ぬが、相手が成獣の場合、トラにとっても危険な争いとなるので、このようなケースは珍しい。

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