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水中洞窟
隠された「過去」

AUGUST 2010


 この調査はバハマ国立博物館との共同プロジェクトで、ベテランの洞窟探検家でマイアミ大学の人類学者でもあるケニー・ブロードの発案で始まった。彼の強いリーダーシップの下、潜水と安全管理の責任者ブライアン・ケークック、撮影担当のウェス・スカイルズなどからなる調査隊は、20数カ所で合計150回前後の潜水調査を実施。集めたデータは、ブルーホールの内部構造と水の化学的性質を解き明かすだけでなく、生物学や古生物学、考古学、宇宙生物学の研究に役立てられる。

 この調査はなるべく早く実施する必要があった。平均海面の上昇が現在のペース(おそらく100年間に1メートル程度)で続いた場合、多くの内陸型ブルーホールは今後数十年以内に海にのみ込まれる公算が大きい。そうなれば、貴重なブルーホールの環境そのものが破壊されてしまう。

 もう一つ心配なのは、ブルーホールがごみ捨て場に使われていることだ。そのため水質が悪化し、バハマの貴重な水源が損なわれている。地中にあるブルーホールは目立たないため、環境保護の対象になりにくいとブロードは言う。調査隊は、ブルーホールの重要性と危機的な状況を広く伝えることも目標の一つに掲げている。

酸素なしで生きる微生物

 酸素は生き物に欠かせないものと思いがちだが、実は生命が誕生した約40億年前から約25億年前まで、地球には酸素がほとんどなかった。生物は10億年以上の間、無酸素の環境で生き続けてきたのだ。約25億年前、酸素を生成するシアノバクテリア(藍藻(らんそう)類)が大発生して、地球上の酸素濃度は一気に高まった。

 米ペンシルベニア州立大学の宇宙生物学者ジェン・マカレディーは、ブルーホールの水の化学的性質を調べることで、原初の生命を支えていた無酸素の環境がどんなものだったかを探ろうとしている。酸素が乏しいブルーホールにいる細菌を調べれば、遠くの惑星や衛星に存在する水の中で、どんな生物がすめるかを推定できる。

 「宇宙を構成する元素は同じです」と、マカレディーは言う。「生命をはぐくむ惑星は、温度の範囲や水の存在など、共通する条件を備えている可能性が高いのです」。宇宙生物学者の多くは、火星や木星の衛星エウロパにある水に、生命に適した環境が存在する可能性があるとみている。はるか遠くの宇宙のどこかには、もっと地球に近い環境を備えた星があってもおかしくない。

 マカレディーは通常の洞窟探検の経験は豊富だが、潜水はしない。サンプルの採取方法をダイバーに伝え、水面から深さ80メートルまでの範囲で水や微生物を採取してもらう。ダイバーがサンプルを陸上に持ち帰ってくると、硫化水素の濃度は現地で測定し、DNA検査や微生物の培養、生命の痕跡を示す分子化石を探す作業などは研究室で実施する。

 「一つひとつのブルーホールがどの程度違うかを調べるために、五つの内陸型ブルーホールから微生物を採取し、DNAを分析しましたが、同じ種は一つも見つかりませんでした」と、マカレディーは言う。洞窟にすむ生物のエネルギーの摂取方法は実に多様で、彼女は何度も驚かされた。「これまで化学的に不可能だと思われていたやり方を駆使する生物もいます。こうした微生物がどのように生きているかを詳しく解明できれば、宇宙のように酸素のない環境で生命を探す手がかりが得られます」

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