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パキスタンの心臓部に迫る影

JULY 2010

文=ジョン・ランカスター 写真=エド・カシ

キスタンの全人口の半数以上が暮らすパンジャーブ州。パキスタン経済にとって重要なこの地域で、武装勢力のタリバンが影響力を強めている。

 冬晴れの午後、ラホールの国立美術カレッジで開かれた毎年恒例の展覧会には、地元知識人がこぞって姿を現した。メーン会場である中庭では若い男女が肩を並べて、たばこを吸い、炭酸飲料を飲んでいる。タリバンが見たら不愉快に思うだろう。

 そのすぐ近くには、手をつないでブランコに乗るカップルをかたどった等身大の彫刻が置かれている。彫刻の内部をのぞくと、男性の胴体が描かれているが、別の角度からは女性の乳房に見える。とはいえ、ここは紛れもなくパキスタンだ。集まった女性たちを見れば、ジーンズの上に丈の長い伝統的なチュニックを着ているし、髪をスカーフで覆い隠す者もいる。

 さまざまな様式や文化が混在し、異なる民族と信仰が同居するところ―。それがパキスタン第2の都市であり、パンジャーブ州の州都であるラホールだ。パキスタンを構成する4つの州の中で最も豊かで、人口も多いパンジャーブ州では、東洋と西洋が出合う。

 20世紀半ば、インドとパキスタンが宗主国だった英国から独立。その後、両国は対立を続け、ここパンジャーブ州でも暴力が渦巻き、血が流されたが、それでもコスモポリタンの活気が失われることはなかった。

 だが今、イスラム原理主義組織タリバンとその協力者がパンジャーブに暗い影を落としている。パキスタンの政治と軍事の中枢である同州では、数年前からタリバン勢力によるテロの嵐が吹き荒れていて、つい最近までテロの脅威を他人事だと思っていたパンジャーブの人々は、アフガニスタン国境に近い辺境から暴力が入り込んできた事実に衝撃を受けている。

 こうした状況は米国政府をも不安にさせている。米国にとって核武装国であるパキスタンは不安定ではあるものの、「テロとの戦い」の重要なパートナーだ。そのパキスタンがテロ攻撃で崩壊する可能性がある。

 私は、2001年9月11日の同時多発テロ事件後の数年間、海外特派員としてパキスタンに滞在していたが、その当時のパンジャーブは比較的平穏だった。もちろん、社会的問題はいくつもあったし、地元出身のイスラム過激派もいた。しかし、軍人や地主、企業家といった現状維持を望む階層の足場は強固だったし、「スーフィズム」と呼ばれるイスラム神秘主義も健在だった。音楽や詩を尊び、寛容を重んじるスーフィズムは、イスラム教強硬派からは嫌悪される存在だ。

 そんなパキスタン社会が、本当にほころび始めているのだろうか?

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