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新・人類進化の道

JULY 2010


 化石の発掘と並行して、地質学者のウォルディゲブリエルが、近くの地層から黒曜石と軽石を集めた。これらは火山噴出物で、年代測定が可能なものが多い。ヘルト村近くで出土した頭骨は、こうした岩石の年代をもとに16万年から15万4000年前のものと推定された。

 この推定年代は非常に大きな意味をもつ。世界各地の現代人のDNAを比較した遺伝学的な研究から、「アフリカ単一起源説」が長年唱えられてきた。現生人類はすべて、今から20万~10万年前にアフリカに誕生した共通の祖先の血を引いているという説だ。だが、この説の証拠となる化石はほとんど見つかっていなかった。ヘルトの化石はこの空白を埋めるものだった。

 この化石は、まゆの部分が隆起した、顔の幅が広い男性の頭骨で、非常に古いホモ・サピエンスの骨とみられ、アフリカ単一起源説の証拠としては完璧なものだ。これまでに発見された最古のホモ・サピエンスの化石ではないかと、ホワイトは考えている。額が広く、頭頂部が丸みを帯びているほか、脳容積が現代人の平均よりも大きい1450立方センチもある。その一方で、長い顔と後頭部のいくつかの特徴は、アフリカの他の地域で見つかったさらに古いホモ属とのつながりも示唆している。

 「ヘルト人についてわかっているのは、肉を好んだこと、特にカバを食べていたことだ」。ホワイトはカバの頭骨についた砂をブラシで払って見せてくれた。ヘルトで出土した哺乳類の骨の多くには、石器で切りつけた痕跡がある。だが、肉を食べていたとしても、狩りをして捕ったのか、他の動物の食べ残しをあさっていたのかはわからない。火を使った痕跡など、居住の跡も見つかっていない。そのため、彼らがどこに住んでいたかも謎だ。

 脳の大きさから考えれば、ヘルトの男性はまさしく現代人と同じ“ヒト”だと言える。しかし、実際の行動には決定的な違いがあった。現代人にある重要な何かが欠けていたのだ。

 ヘルトで見つかった石器は、まずまず高度な技術をうかがわせるが、その10万年前の石器や10万年後の石器と比べても、技術はあまり変わらない。アフリカの他の地域では、これより6万年後のものとみられる穴を開けたビーズが見つかっているが、ヘルトではそうした装飾品は出ていない。弓矢、金属加工品、農耕の跡など、その後に花開く高度な文化や技術の片鱗(へんりん)もない。たった16万年(進化の歴史では一瞬にすぎない)時間をさかのぼるだけで、“人間らしさ”を形づくる決定的な特徴の一つである技術革新の能力が脱落してしまうのだ。

 とはいえ、ヘルトでは人類の複雑な行動の前触れとも言うべき痕跡も見つかっている。それは、抽象的な思考の萌芽とも言えるものだ。

 成人男性の頭骨が見つかった数日後、アスフォーが推定6歳か7歳の子供の頭骨をヘルトで掘り出した。この頭骨には、遺体がまだ新しいうちにていねいに頭皮をそぎ落とした跡と思われる切り傷がついていた。頭骨の表面は無傷で、つるつるしていて、多くの人が繰り返し手にとったようだ。ひょっとすると、この頭骨は何世代にもわたって人から人へと大切に伝えられ、何らかの宗教的な儀式に使われていたのかもしれない。

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