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シリーズ JUNE 2010 |
![]() 文=ティム・フォルジャー 写真=ピーター・エシック 中世には今よりずっと暖かくバイキングが定住したグリーンランド。地球温暖化が進んで当時の気候がよみがえりつつある。グリーンランドの人びとは、緑の大地がよみがえり、これまで氷に閉ざされていた石油資源で豊かな生活を送ることを夢見ている。天気が荒れやすいグリーンランド南岸から少し北や西に入った所には険しい斜面が広がり、氷河が点在するフィヨルドを見下ろしている。今から1000年以上前に、「赤毛のエイリーク」と呼ばれる人物が、ヨーロッパ人として初めてグリーンランドに足を踏み入れて定住したところだ。 北緯60度43分に位置するカコルトクの町では、ナガハグサやルバーブ、プルース、ポプラ、モミなど固有の植物が見られる。ここから北極圏まではわずか650キロほどの距離だ。 「ゆうべ霜が降りた」と裏庭に出たケネス・ホーグが話す。7月の暖かい朝、ホーグはカの襲来に悩まされながら植物の様子を見て回る。眼下にはカコトック湾がまばゆい陽光にきらめき、船着場から数メートルの所に小さな氷山が流れ着いていた。丘陵地にはあざやかな色に塗られた羽目板づくりの住宅が点々と続くが、家を作るための木材はすべてヨーロッパからの輸入品だ。花崗岩(かこうがん)がむき出しの丘は、まるで港を見下ろす円形劇場のようでもある。 がっしりした体格で、赤っぽいブロンドの髪によく手入れされたひげをたくわえたホーグは、バイキングのイメージそのままの人物だが、実際には園芸作物が専門の研究者だ。彼の一族は200年以上も前からカコトックで暮らしてきた。庭の隅で、ホーグは白いビニールシートをめくって、先月植えたカブの様子を確かめる。 「これはすごい! 信じられない!」ホーグは大きな笑顔を浮かべた。カブは青々とした葉を茂らせている。「3、4週間もほったらかしだったんだ。今年は庭に一度も水をまかなかったが、雨と雪解け水だけで育ったんだ。すばらしい。すぐにも収穫できそうだ」 カブが順調に実ったことなど些細(ささい)なことのように感じるかもしれないが、このグリーンランドでは一大事だ。陸地の80パーセント近くが最高で3.5キロメートルもの厚い氷に覆われているため、生まれてから一度も樹木に触れたことがない人もいる。 |