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マンデラの子供たち

JUNE 2010

文=アレクサンドラ・フラー 写真=ジェームズ・ナクトウェイ

パルトヘイト(人種隔離)政策の撤廃から16年。多様な文化が交わる社会で、差別は解消されたのか。ある爆弾テロ事件の実行犯と被害者を描いた物語と、人々の日常を鮮烈にとらえた写真で、南アフリカ共和国の真の姿に迫る。

償いの始まり
テロ実行犯と被害者の物語

 空に向かって立つ教会の白い尖塔(せんとう)、広く整然とした道路、そして切り妻屋根の美しい家々。その庭には大輪のバラが咲き乱れ、青々とした芝生はよく手入れされている。南アフリカ共和国南西部の大都市ケープタウンから北東へ1時間半ほど車を走らせると、いかにも保守的な紳士淑女が暮らしていそうなこの町、ウースターにたどり着く。冬には四方を囲む山々の頂に雪が輝くが、夏になると道路のアスファルトが溶けそうなほど暑くなる。四季の変化に富んだ閑静な町である。

 1990年代半ば、この町にはアパルトヘイト(人種隔離)政策時代に引かれた境界線が地理的にも心理的にも依然として残っていた。白人が市街地や山麓(さんろく)の農場で暮らす一方で、多くの黒人は、市街地と川でへだてられた貧しい旧黒人居住区ズウェレテムバに住んでいた。

 とはいえ、ウースターには初のカラード(混血)の市長と初の黒人助役がすでに誕生していた。さらに1996年6月には、アパルトヘイト時代の人権侵害を調査し民族和解をめざす「真実和解委員会」が、この町で聴聞会を開き、拷問や虐待の被害者と加害者がともに名乗り出て証言した。暴力が吹き荒れた時代は、確実に過去のものとなるはずだった。

 そんななかで起きたのが、爆弾テロ事件だった。1996年、南半球では真夏にあたるクリスマスイブの午後。警察署とオランダ改革派教会から通りを少し下った商業地区で、2個の爆弾が破裂したのだ。子供3人を含む4人が死亡し、70人近くが負傷した。被害者は全員、黒人とカラードだった。

 最初の爆発が起きたのは午後1時20分ごろ。被害者の女性、オルガ・マシングワネの脚はみるみるうちに腫れ上がった。数分後に2回目の爆発が起きると、体ごと吹き飛ばされて意識を失った。

 「それから13年間、私にこんな仕打ちをした犯人の顔を見たことはありませんでした」。2009年11月末、とても暖かい日曜の朝、ズウェレテムバにある自宅の居間で、マシングワネは話してくれた。くるぶしまであるピンク色の細身のスカートに、おそろいのジャケット。とても礼儀正しく落ち着いた中年の女性だ。

 ちょうど屋外で日曜礼拝が行われている最中で、聖歌隊の歌声が界隈に響き渡り、会話が聞き取りにくかった。マシングワネは庭に通じるドアを閉めようと、ぎこちなく立ち上がった。今でも歩行が困難なのは明らかだ。「でも、頭のなかでは犯人の顔を思い描いていました」。彼女は話を続けたが、ドアを閉めても歌声は聞こえてきた。「50歳くらいの、とても大柄で、長いあごひげを生やした人相の悪い男です。悪夢には、いつもその男が出てきました」

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