/2010年5月号

トップ > マガジン > 2010年5月号 > 特集:麻薬聖人 メキシコの心の闇


定期購読

日経ナショナル ジオグラフィック 翻訳講座 秋期受講生募集中 詳しくはこちら

ナショジオクイズ

Q:米国の五大湖すべてを足した面積に近いのは次のうちどれでしょう。

  • 北海道
  • 日本の本州
  • 日本全土

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

麻薬聖人
メキシコの心の闇

MAY 2010


 「精神的なプレッシャーと困難の時代に生きる緊張感のせいで、人々は危険に直面する自分たちを助けてくれる聖人を求めているのです」と、民間信仰の専門家であるメキシコ国立歴史人類学院のホセ・ルイス・ゴンザレス教授は言う。こうした守護聖人の中には、最近になって新たな信者を獲得したアフリカ系キューバ人の神々もいれば、メキシコ北部の伝説的な盗賊ヘスス・マルベルデのように奇跡を行う聖者に祭り上げられた荒くれ者もいる。さらに魂の救済から現世利益の実現へと役割を変えた新約聖書の聖人もいる。

 メキシコで拡大を続ける新しいカルト信仰の世界で、いま最も急速に信者を増やしているのは、おそらくサンタ・ムエルテだろう。長いローブを身にまとい、草刈りがまを手にした骸骨(がいこつ)の姿をした「彼女」は、少なくとも第一印象では最も派手な聖人でもある。「これまで10年もの間、死と隣り合わせの日常生活を暮らしていたメキシコでは、この骸骨が現在のこの国を分かりやすく明確に象徴しているのです」と、ゴンザレスは言う。

死と隣り合わせの日常を象徴

 サンタ・ムエルテはメキシコでは最近までほとんど無名で、中世から伝わる死神の姿に似ているが、死者の魂のために祈りを捧げるカトリックの行事「死者の日」に登場する陽気な骸骨たちとは根本的に違う。サンタ・ムエルテの祭壇は、今ではメキシコ全土の街角や貧しい人々の自宅に置かれ、男も女も信者になっている。

 エンリケータ・ロメロは毎月初め、メキシコシティ中心部の治安の良くないテピート地区でサンタ・ムエルテをたたえる集団礼拝を先導する。頑固で口は悪いが、母親のような優しさも併せ持つロメロは、サンタ・ムエルテ信仰の布教に早くから取り組んできた最も有能な宣教者の一人だ。一説によると、このカルト信仰はメキシコ湾岸の町で誕生したとされているが、今ではメキシコ全土に広まっている。

 米国カリフォルニア州や中米諸国でも、若者たちがサンタ・ムエルテのためにろうそくに火を灯し、その姿を入れ墨に刻むようになっている。数年前、メキシコ内務省はサンタ・ムエルテ信仰を非合法化したが、焼け石に水だった。街頭の新聞販売所では、礼拝の方法を教えるビデオが売られており、人気評論家も「本物の信仰」として認めるようになってきた。

Back2next

年間購読のお申込はこちら

ナショナル ジオグラフィック バックナンバー