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眠りの神秘

MAY 2010


不眠とその影響

 困ったことに、眠りたくても眠れないこともある。先進国では、不眠に悩む人は非常に多く、米国だけでも5000万~7500万人、人口のおよそ5分の1が睡眠にかかわる悩みを訴えている。にもかかわらず、不眠の根本的な原因を探る研究は驚くほど遅れている。米国の大半の医学部では、睡眠障害の講義を4時間程度しかカリキュラムに入れていないし、全く教えていない学校さえある。

 不眠対策を怠ることで、私たちは深刻な社会的・経済的損害を被っている。保健行政に関する助言をしている米国の民間研究機関、医学研究所の推定では、死傷者を出すような重大な自動車事故の2割近くは、居眠り運転が原因だ。また、睡眠不足による事故に関連して支払われる医療費は、米国だけでも膨大な額に上ると推定されている。労働生産性の低下も考慮に入れると、睡眠不足によって生じる経済的な損失はさらに大きなものとなる。問題はそればかりではない。睡眠不足が原因となって、人間関係が悪化したり、ときには修復不能な状態になることもある。また、労働意欲の低下や人生に楽しみを見いだせなくなるなど、数字には表れない損失も大きい。

 睡眠は実に内面的で、謎が多い身体機能だ。そのためか、広範囲に悪影響を及ぼしている現実がありながら、政府や行政は不眠症などの睡眠障害への対策に全力で取り組んでいない。米国連邦政府の研究予算を配分する米国立衛生研究所が、睡眠の研究に割り当てる助成金は年間2億3000万ドル(およそ207億円)ほどしかない。これは、米国人におなじみの睡眠薬であるルネスタとアンビエンを製造する会社が2008年の約半年間にテレビ広告に使った金額とほぼ同じだ。つまり、米国において、不眠対策はおおむね製薬会社と民間の睡眠障害クリニックに任されているといえる。

 ある日の午後、私はスタンフォード大学付属の睡眠医療センターを訪れた。同センターは米国初の不眠治療専門クリニックとして1970年に創設され、今でも最も権威ある睡眠障害クリニックの一つだ。患者数は年間1万人を超え、患者が1泊して行う検査は年間で延べ3000回を超える。

 同センターで行われる主な検査は睡眠ポリグラフと呼ばれる方法で、その際に重要な役割を果たすのが、眠っている患者の脳の電気的な活動を記録する脳波計だ。

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