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地球と、生きる
セントヘレンズ山

MAY 2010


 噴火の被災地のうち広さ445平方キロの範囲は、生態系を自然の力で回復させるため、1982年に「セントヘレンズ山国定火山記念物」に定められた。その約4分の1は研究区域として一般人の立ち入りが禁止され、地球上で最大級の規模を誇る“生態系再生の実験場”となっている。広さ11平方キロのスピリット湖も研究区域に含まれているため、ニジマスが大きくなったという噂(うわさ)を聞いても、釣り人は湖に近づくことすらできない。

 そろそろ立ち入り禁止を解除してもいいのではないか―。噴火から30年がたち、スピリット湖のニジマスが大型化したことをきっかけに、環境保護活動家や研究者、釣り人、連邦議会議員、レンジャー(自然保護官)、観光業に携わる人々のあいだには、新たな議論が生まれた。

 「自然現象によって森林が大規模に乱された地域のなかで、この一帯ほど詳細に研究されてきたところは、ほかにありません」。そう語るクリサフリは、分子レベルから生態系レベルまで、細菌から哺乳類まで、ほとんどあらゆる視点や規模からこの火山地帯を研究してきた。噴火が起きた場合にどのような事態を想定すべきかと、アラスカ州やチリの政府関係者から、電話で問い合わせが入ることもある。

 セントヘレンズ山の噴火からまず学ぶべきなのは、「生き残った生物」の重要性だ。倒木、植物の根や種子、ネズミ、両生類など、積雪や地形に助けられて死ななかった生物がいる。

 これまでは、被災地に外部から侵入してくる生物が生態系の再生を担うと考えられてきた。だが、実際には再生は内部からも起きている。「軽石平原」と呼ばれる広さ15平方キロの荒野で噴火の1年後に生えてきた1本のマメ科のルピナスが、やがて子孫を増やし、灰色一色の世界を美しく彩ったのだ。ルピナスは豊かな栄養を昆虫にもたらし、ネズミのすみかともなった。枯れてなお土壌を肥やし、ほかの生物が繁殖できる素地をつくった。爆風で荒地と化した一帯は、こうして徐々に生気を取り戻していく。

 広い視点で見れば、人間も再生実験の担い手であることがわかる。自然が息を吹き返すと、予算不足や観光客の減少に対処すべきだと考える人が現れた。この一帯を国立公園に制定すべきだという声が上がり始めたのだ。また、体長が50センチにも達するニジマスの噂を聞いて、スピリット湖をなぜいつまでも立ち入り禁止にしておくのか、30年間も研究を続ければ十分だという声も聞かれるようになった。

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