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特集

ヨルダン川の
「戦争と平和」

APRIL 2010

文=ドン・ベルト 写真=パオロ・ペレグリン

スラエルと周辺諸国の紛争の火種になってきたヨルダン川は、今や干ばつと水質汚染で枯渇寸前だ。この川を守る戦いは平和への一歩になるだろうか。

 聖書にも登場する中東を流れるヨルダン川。神々しい静けさを連想させるが、実際は平和からはほど遠い。今も戦争の傷跡が残るヘルモン山の水源を流れ出た奔流は、300キロ以上下流の死海付近で暗褐色のよどみに変わるが、過酷な環境のせいでその存在自体が脅かされている。ヨルダン川周辺は、近隣の国々が川岸に地雷を敷設したり、砂州の帰属をめぐって戦争が起こりかねない殺伐とした場所だ。

 中東の乾燥地帯で水は常に貴重な資源だが、近年は6年連続で干ばつが続き、また人口増加のせいで、生活に欠かせないヨルダン川の水利権を争うイスラエル、パレスチナ、ヨルダンの間で新たな紛争の火種となりつつある。

 こうした事情を考えれば、2009年7月のある朝の光景はとりわけ奇異に映る。イスラエル軍の護衛に守られながら、ガリラヤ湖から南へ65キロほど離れたヨルダン川にひざまで浸かって立っていたのは、イスラエル人、パレスチナ人、ヨルダン人の3人の研究者だ。1967年6月の第3次中東戦争(6日間戦争)で爆撃を受け、今にも崩れそうな橋の遺構のたもとで、3人は環境保護活動を通じて平和の構築を目指す「地球の友中東」(FoEME)という現地のNGO(非政府組織)のためにヨルダン川の調査を行っていた。ここはかつて戦闘が繰り広げられた場所で、この日は焼けつくような暑さだった。熱射病にかかったり、落ちてきたコンクリート塊で大けがをしたり、下流に流されてきた地雷を踏んでしまう恐れさえあったが、3人とも気にするそぶりを見せなかった。

 つばの広い緑色の帽子をかぶったイスラエル人の生態学者サリグ・ギャフニーが「この小さいやつを見てくれないか」と、若い長身のヨルダン人の環境工学の専門家サメル・タロジに声をかけた。ギャフニーがサンプル採取用のガラス容器に入れた小さな無脊椎動物を肩越しにのぞき込むと、サメルは「生きてるぞ! しぶとい甲殻類だな」と笑みを浮かべた。すぐ近くでは、ヨルダン川西岸出身のパレスチナ人の植物学者バナン・アル・シャイフが、川岸に生えた背の高いアシなど水辺の植物に囲まれた花樹にカメラの焦点を合わせながら、一心不乱に上流へ向かって進んでいる。「足元に気をつけてくれよ」と、ギャフニーが後ろから声をかける。「地雷を踏むんじゃないぞ」

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