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特集

水 限りある資源

APRIL 2010


事実を見つめ、常識を変える

 わが農場とは大きく異なる状況にあるのが、南米ペルー北西部の沿岸からエクアドル南部に横たわるピウラ砂漠だ。広さ3万6000平方キロのこの一帯に、気候を表す言葉は「乾燥している」と「より乾燥している」しかない。

 その南端にあるバホ・ピウラ谷は、さしずめ「最も乾燥している」場所だろう。1月から3月までの降水量は、エルニーニョ現象しだいで多少変わるものの、25ミリほどしかない。「だけど、一滴も降らない年もありますよ」。私の乗った車の運転手が、乾いた川底にがたがたと車を走らせながら教えてくれた。

 車は何時間も、白い粉をかぶったような荒れた畑の横を走り続けた。白く見えるのは、長年ので土壌に蓄積した塩分だ。塩害でこの一帯は耕作ができなくなってしまった。

 車はやがて、強い日差しが照りつける谷間へと入った。どんな生き物も耐えられそうにないほど乾ききった死の谷。それでもまばらな木立が見える。マメ科の木、プロソピスの一種だ。砂漠で地中深くまで根を伸ばして育ち、樹木のなかでも特に乾燥に強い。そして驚いたことに、この谷で生きているのは、木だけではなかった。いくつかの家族が生活を営んでいたのだ。

 彼らは、ただで定住できる土地を求めて流れ着いた経済難民だ。住むのにコストがかからないとはいえ、谷での暮らしには数々の困難が伴う。になる木を片っ端から切ったため、砂漠化がさらに進んでいた。

 ここを訪れたのは、ペルーの自然保護活動家たちが、NGO(非政府組織)の「ハイファー・インターナショナル」と共同で進める森林再生事業を取材するためだった。住民にヤギを飼ってもらい、在来種のマメ科の木、メスキートのさや豆を餌として使ってもらう。そうすればヤギが砂漠を歩き回っている間に、と一緒に種をまいてくれる。

 粗末な小屋で、若い母親がへこんだ鍋を火にかけ、ヤギの乳から白いチーズを作る作業を見せてくれた。女性たちは、1日約8時間かかる水くみの仕事に追われて、ヤギの乳搾りをする時間もなかなかとれない。

 近くでは男たちが井戸を掘っていた。掘った穴の内壁をベニヤ板で支え、コテで少しずつセメントを塗って固めていく。手づくりの昇降機で、穴の底に人を下ろし、砂を入れたバケツを引き揚げる。十数人の男たちは、水が出ると信じているようだったが、その労苦がもたらしたのは、乾いた砂の山だけだった。その辛抱強さは私の理解を越えていた。この死の谷に追い詰められて、いったいいつまで持ちこたえられるのだろう。極度の水不足にうんざりして、よそに移るのは時間の問題ではないか。

 それから5年。男たちはほかに行き場もなく、乾いた砂を今も掘り続け、この不毛の地で何とかささやかな生活を築こうと悪戦苦闘している。南米だけではない。サハラ砂漠以南のアフリカでは、全世帯の40%が水くみ場まで歩いて30分以上かかる場所に暮らす。しかも、この距離は年々延びつつある。

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