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特集

上海再興

MARCH 2010

文=ブルック・ラーマー 写真=フリッツ・ホフマン

月からの万博を控えた中国・上海。高層ビルが建ち並び、急速に近代化されるなか、階級や文化をめぐる問題が浮上している。

 その古い防空壕は、まるで別世界の秘密の空間だった。陽光が降りそそぐ頭上の通りでは、出稼ぎ労働者たちが昼食をほおばり、パリっとした白シャツを着たビジネスマンの集団が通り過ぎていく。そんななか、一人の若い女性が奥まった暗い階段を下りていった。仲間から“サミー”と呼ばれている22歳のこの女性は、その場所について、「0093」という名前しか知らない。

 サミーは、爆風を防ぐために設置された厚い金属製のドアを通って、薄暗い廊下の奥に向かった。ここは今も、上海(シャンハイ)の暗い時代の面影を残している。東と西の文化が混ざり合う「東洋のパリ」と呼ばれた上海。だが戦争や共産主義革命によってその黄金時代は終止符を打たれた。ここにはそんな時代の息が詰まるような、閉塞(へいそく)した雰囲気が漂う。

 先に続くドアを開けると、エレキギターの轟音(ごうおん)が廊下に響いた。伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスのポスターの下で、4人の若い女性が楽器をかき鳴らしている。サミーが所属するパンクロックのバンド「ブラックルナ」だ。

 傷つき、萎縮した社会の象徴だった防空壕(ごう)は、今では上海の音楽シーンの発信地になった。0093の練習用スタジオから巣立った地元のバンドは100組以上。かつての黄金時代と同様、東洋と西洋の要素が混ざり合った上海文化が再び盛り上がりを見せている。

 サミーがジャケットを脱ぐと、演奏に拍車がかかった。オレンジ(20)がドラムを叩き、ジュース(23)が和音を刻むなか、サミーは前髪を激しく上下させて歌う。

 「私たちは生まれたばかりの鳥。だけど大きな夢があるの」。彼女は叫んだ。

 「全世界に私たちの歌を聴かせたい」

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