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特集

シンガポール
繁栄の裏側

FEBRUARY 2010

文=マーク・ジェイコブソン 写真=デビッド・マクレーン

50年足らずでハイテク大国に発展した国の、周到な国家戦略とは。


かつては、マラリアがはびこる沼地だったマレー半島南端。

 東京都23区よりもやや広いくらいの小島を、一代で世界有数の都市国家に発展させたのが、シンガポールの初代首相、リー・クアンユーだ。英国風のエリート階級による統治と徹底した実利主義の経済政策、旧来の圧政を周到に組み合わせ、シンガポールという国家を“発明”した人物である。現在、同国の顧問相を務め、略称好きの国民から「LKY」と呼ばれるその本人に、話を聞く機会を得た。

 シンガポールの人々にとって、リー・クアンユーは、単なる“建国の父”以上の存在だ。今から顧問相(MM)にインタビューするのだが、何を質問したらいいだろうか―魚の頭を煮込んだ名物のフィッシュヘッドカレーをほおばる地元の人々や、タクシーを飛ばす運転手に、そう尋ねてみればいい。「なに、MMに会うって? 本当かい?」と話に乗ってくるはずだ。

 1963年に英国から独立し、わずか数十年で驚くほど効率的な国家へと変貌(へんぼう)を遂げたシンガポール。370万人の国民の一人当たり国民所得は欧州の多くの国々を上回り、教育や医療制度はどの欧米諸国にもひけをとらず、官僚はほとんど汚職に手を染めていない。世帯の90%は持ち家を所有し、税金はさほど高くはなく、歩道は清潔で、ホームレスやスラム街はまず目につかない。シンガポールは“東南アジアのスイス”とも呼ばれるが、まさにその言葉通りの国だ。

 こうしたすべてを実現するには、“アメとムチ”、つまり報奨と懲罰の微妙なバランスを保つことが必要だった。

 まず目につくのは“アメ”の方、つまり果てしのない建設ラッシュと消費をあおる、めざましい経済成長だ。そしてこの対極にある“ムチ”を象徴するのが、チューインガム禁止令であり、自動車の車体にスプレーでいたずら書きをした不届き者に加えられるむち打ち刑である。人種や宗教の違いをめぐる諍(いさか)いなど許されないし、スリのような犯罪もない。

 豊かさと治安の良さを獲得するには、どれだけの代償が必要なのか。おそらくシンガポールほど、この問題を深く考えさせる国はほかにないだろう。社会のすみずみまで管理が徹底し、熾烈(しれつ)な競争のもと、がむしゃらに働くことが尊ばれ、一党支配を続ける政党が国民に過酷な罰則を科し、報道の自由がないがしろにされ、財政内容が不透明で疑わしい。多くの人々がそう指摘する国に、果たして住む価値があるだろうか? そんな疑問が頭をよぎる。

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