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特集

脳とつながる
ハイテク義手

JANUARY 2010

文=ジョシュ・フィッシュマン 写真=マーク・ティッセン

や目の形だけでなく、動きや感覚までも模倣する「生体工学」。空想の世界にしかなかった技術が、現実のものとなりつつある。

 教室に入ったとたん、アマンダ・キッツは子どもたちに取り囲まれた。ここは米国テネシー州ノックスビル近郊の保育所だ。「こんにちは。みんな元気かしら?」。彼女はそう言って、子どもたちの肩に触れ、頭をなでる。細身の体形ながら精力的なキッツは40歳。この保育所を20年近く切り盛りしてきた。キッツは女の子に話しかけるため、身をかがめ、自分のひざに手を乗せた。

 「ロボットの腕だ !」
 何人かの子どもが大声を上げる。
 「この腕で握手ができるのよ」

 そう言うと、キッツは左腕を伸ばして義手の手首を回転させた。一人の男の子が恐る恐る手を伸ばし指に触れる。やや内側に曲がった指の材質は、肌色のプラスチックだ。内部には3個のモーターと金属フレーム、複雑な電子回路が組み込まれている。義手の付け根部分はソケットになっていて、上腕の中間あたりにある切断部を覆っている。キッツは2006年の自動車事故で左腕のほぼすべてを失った。

 それでも、キッツの脳の意識下では、無傷な腕のイメージが幻覚のように残っている。ひじを曲げようと考えると、この“幻の腕”が動くのだ。この仕組みを利用したのがキッツの義手。脳から送られた神経信号をソケット内のセンサーが検出し、電気信号に変換してモーターを回転させると人工のひじが曲がるのだ。

 「普通に手を動かしている感覚です」と語るキッツは、この標準モデルの義手と、もっと正確に動かせる試作モデルの両方を使っている。

 「事故の後は大きな喪失感に襲われました。どうして神様はこんなひどい目に遭わせるのか、理解できませんでした。でも最近は、いつも元気いっぱいです。いつかこの“腕”でものの手触りを感じ、子どもたちの歌に合わせて手拍子できる日がくるでしょう」

 体の一部が損傷したり、失われたりしても、その部位を制御する神経と脳の機能は生き続ける。キッツはそのことを示す生きた証拠だ。超小型の電極と外科手術の驚異的な進歩によって、脳や神経と、カメラやマイク、モーターなどの電子装置をつなげられるようになった。その結果、視覚障害者が視力を、聴覚障害者が聴力を回復させることも夢ではなくなった。こうした装置は、学術的には「ニューラル・プロシーシズ(神経につながれた人工器官)」と呼ばれるが、一般には「バイオニクス」という呼び方も広まりつつある。

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