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ハッザ族
太古の暮らしを守る

DECEMBER 2009

文=マイケル・フィンケル 写真=マーティン・ショーラー

物を毒矢で狩り、植物やはちみつを集める暮らしを営むハッザ族。アフリカのタンザニア北部で2週間、彼らと生活を共にした。

「腹が減ったな」。真夜中、焚(た)き火のそばにしゃがんだ、長老格のオンワスが言った。つられて周りの男たちも、口々に空腹を訴える。ここは、ハッザ族が暮らす東アフリカの奥地。タンザニアの灌木(かんぼく)地帯だ。

 女たちが集まる焚き火から、リズミカルな歌が聞こえてくる。オンワスは日中に見かけた木のことを話しだした。男たちが身を乗りだす。「その木は、切り立った丘の頂に立っていて、近づくのは難しそうなんだが」と言うと、張りだした枝のように、腕を大きく広げた。「その木に、ヒヒがいっぱいいたんだ」

 男たちが、ざわめいた。炎がぱちぱちと音を立て、無数の星が輝く夜空に火の粉が舞い上がる。よし、決まりだ。男たちは立ち上がり、弓を手にした。

 オンワスはもう若くない。正確な年齢ははっきりしないが、60歳を過ぎているようにも見える。それでも、ハッザ族の例に漏れず、細身で引き締まった体をしている。身長は150センチくらいだろうか。

 腕や胸には、灌木地帯での長い生活を物語る傷跡が刻まれている。狩りのときの傷、ヘビにかまれた傷、矢やナイフ、サソリ、灌木のとげでついた傷、バオバブの木から落ちたときの傷、ヒョウに襲われたときの傷。歯は半分ほど抜けている。古タイヤでできたサンダルと、ぼろぼろの茶色いショートパンツをはき、腰には、ディクディク(小型のアンテロープの一種)の皮でつくったさやに狩猟用のナイフを収めてぶら下げている。オンワスがTシャツを脱ぎ捨てると、他の男たちもほとんどがそうした。夜の闇に紛れるためだ。

 オンワスは私を見て、母語のハッザ語で何か話した。軽やかでやさしい響きの音に、舌を打ち鳴らす音(クリック音)やのどの奥から出す破裂音など、驚くほど強い音が混じる。私には、両極端の響きをもった奇妙な言葉に聞こえた。ハッザ語は、現在使われている他のどの言語とも近しい類縁関係がなく、言語学では「孤立した言語」と呼ばれている。

 通訳は、オンワスの姪(めい)に当たるマリアムという女性が務めてくれた。11年間学校に通い、英語とハッザ語が話せる世界でも数少ない人物だ。彼女がオンワスの言葉を通訳してくれた。「一緒に狩りに行きたいか?」

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