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特集

花粉が運ぶ愛

DECEMBER 2009


敗者がつづる歴史

 花粉は、歴史をつづる。書き手は生殖競争の“敗者”だ。空気中には目指す花へと到達しそこねた花粉がたくさん漂っている。今この瞬間にも、あなたの腕や顔に舞い下りているかもしれない。そうして花粉は、地面に一層、また一層と積もっていく。それらがよく残っているのは、湖や池の底だ。腐敗の遅い堆積(たいせき)物中の花粉は、いわば1冊の歴史書である。花粉学者は湖の底の堆積物を採取し、地層ごとに植生がどう変化したかを調査する。その歴史は何千年、何万年もさかのぼれることもある。

 堆積物中の花粉は、火災の頻度や氷河作用など、様々な情報を伝えてくれる。しかし、ここ数千年間で最も大きな変化は、ごく最近になって起きている。農地が拡大するにつれて樹木の花粉が減り、穀物や草本の花粉が増加した。地球温暖化が進めば、涼しい気候に適応してきた植物が衰え、温暖な地域から広がってきた植物の花粉が増えるだろう。

 花粉は過去の文明の盛衰をも記録してきた。たとえば中米のマヤ地域では、もともと森林の樹木の花粉が最も一般的だった。4600年ほど前、そこにトウモロコシの花粉が現れる。そして2000年前までには、花粉の大半は農業に関係するものになった。ところが1000年ほど前からトウモロコシや草本の花粉が消え始め、今では樹木の花粉がまた主流になっている。

 あらゆる記録がそうであるように、花粉の記録にも誤差がある。だが、マヤで何が起きたかは誰の目にも明らかだろう。一つの文明が勃興(ぼっこう)し、やがて衰退したのである。神殿は、花や木々に取って代わられた。今後、人類に何が起ころうと、花粉の記録は途絶えまい。花粉は批評を交えず、事実だけを提示する。

 人類を含め、生きとし生けるものの生命は皆、奇跡のようなものだ。花粉の往来を頼みとする植物の生命となればなおさらのこと。それでも植物は、恐竜が誕生する前から脈々と、相手を見つけ、愛を交わしてきた。当時の空を飛び回っていた巨大なトンボの体毛にも、きっと黄色い粉がくっついていたに違いない。

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