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シリア 世襲政治の行方

NOVEMBER 2009

文=ドン・ベルト 写真=エド・カシ

密警察が目を光らせ、官僚の腐敗がはびこるシリア。中東情勢の鍵を握るこの国を、44歳の若き大統領はどう改革していくのか。

 長男が死んだ場合、父親の跡を継ぐのは誰か。フランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ゴッドファーザー』で描かれた、マフィアのコルレオーネ・ファミリーの場合は、弟のマイケルだった。兄は殺され、父は老いつつある。父親が一代で築いたマフィア組織を、自分が受け継がなければならないのか―外国に滞在していたマイケルは、これは宿命なのだとあきらめて、帰国の途につく。

 シリアのバッシャール・アル・アサド大統領も、このマイケル・コルレオーネと似た宿命を負ったのだろう。兄の死によって、父親ハーフェズの政権を引き継ぐことになったからだ。

 1994年1月21日午前7時すぎ、当時住んでいたロンドンのアパートで、電話が鳴った。市内の病院で眼科の研修医をしていた28歳のバッシャールは、兄のバーセルが事故死したという知らせを受けて、祖国に呼び戻された。

 そして2000年6月、大統領だった父親が心不全で亡くなった。享年69。葬儀を終えてまもなく、バッシャールは父の執務室に入った。この部屋に来るのは2回目だった。1回目は7歳のとき。学校で初めてフランス語を習ったことを父親に知らせたくて、走ってきたのだった。机の横の棚に、オーデコロンの大きな瓶が置いてあったのを覚えている。

 27年ぶりに執務室に入ったバッシャールは、その瓶がほぼ手つかずのまま、同じ場所に置いてあるのを見て驚いた。香りの抜けたオーデコロンは、閉鎖的で停滞しきったシリアの政治体制を象徴しているようだった。

 「父から政治の話を聞かされたことはなかった」とバッシャールは打ち明けた。「やさしくて子ども思いの父親だったが、94年に私が帰国してからでさえ、政策決定については、会議中のメモを読むか、父が側近たちに話すことをそばで聞いて、学ぶしかなかった」

 彼が学んだ教訓の一つは、シリアのような国を運営するには、原理原則では割り切れない、あいまいな現実を受け入れなければならないことだ。写真が趣味というバッシャールは、自らの国をモノクロ写真にたとえてこう話す。「真っ白も真っ黒もない。善悪もはっきりしない。あるのはただ、さまざまな濃淡の灰色だけだ」

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