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古代エジプト
王者のペット

NOVEMBER 2009


 これらのミイラは、死者のそばにいて来世で永遠に死者を慰めるようにとの思いから埋葬されたものだ。紀元前2950年ごろから、エジプト中部の都市アビドスでは、第1王朝のフォラオたちがイヌやライオン、ロバなどとともに複雑な構造の墓に埋葬されるようになった。それから2500年以上たった第30王朝時代になると、アビドスに住むハピメンという名前の平民の墓には、小さなイヌが飼い主の足元に体を丸めた形で埋葬されていた。

 死者の食料として埋葬されるミイラもある。上質の牛肉の切り身や、カモ、ガチョウ、ハトなどの肉を塩漬けにして乾燥し、亜麻布でくるんであるのだ。

 さらに、神の化身として崇拝された動物のミイラもある。長きにわたって古代エジプトの首都だったメンフィスは、最盛期の紀元前300年ごろには面積50平方キロメートル、人口25万人が住む大都市だった。栄華を極めた都市の大部分は、今日ではミト・ラヒナ村とその周辺の地面の下に埋もれてしまったが、ほこりっぽい細い道の脇には、草が生い茂る神殿の遺跡がある。ここは古代エジプトで最も崇拝された動物の一つである聖なる雄牛アピスにミイラ処理を施した場所だ。

 アピスは力と男らしさの象徴であり、ファラオとは密接な関係にあった。アピスは動物であると同時に神でもあり、額に三角形の白い斑点、肩から腰にかけて翼を広げた白い鳥の模様、舌にスカラベの形、尾の先の毛は二股に分かれている、などいくつかの際立った特徴をもつ雄牛が信仰の対象に選ばれた。生きている間は黄金や宝石で飾られて、特別な聖所で神官たちから手厚く世話をされ、人々はアピスを崇拝した。アピスが死ぬと、その聖なる本質は別の雄牛に乗り移ると信じられていて、次のアピスになる雄牛が選定される。死んだアピスは神殿に運ばれてミイラ処理が施された。巨体を乾燥させるのに40日、布を巻くのに30日と、その作業には少なくとも70日間かかった。

 アピスが埋葬される日、人々は国をあげての儀式を見ようと通りを埋めつくした。その前を神官や神殿の歌い手、地位の高い役人が行列をつくって行進し、アピスのミイラを埋葬所に運んだ。石灰岩の岩盤を掘って造ったアーチ形の天井の埋葬所には歴代のアピスのミイラが埋葬されている。新しくミイラにされたアピスは、木製か花こう岩でできた大きくて壮麗な棺に納められて安置された。時代が下ると、盗掘者がこの聖なる墓所を荒らした。棺のふたをこじ開けてミイラの貴重な副葬品をあさり、今日まで無傷で残るものは一つもない。

 古代エジプトでは、アピス以外にワニや魚、ヒツジなどさまざまな動物が聖なる動物として崇められ、それぞれに信仰の中心地があった。「聖なる動物」信仰はエジプト文明の始まりとともに起こったと、イクラムは考えている。当時は現在よりも雨が多く、大地は緑に覆われ、自然の恵みも豊富だった。周囲にはさまざまな動物が暮らし、人々は動物をその習慣によって特定の神と結びつけて考えた。

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